第4回:建設会社の経営(2)
2007.10.01
VOL.3で、「経営とは本来シンプルな世界だと思う」と書いた。
建設業経営でいえば、営業と施工の組み合わせを利益が残るように制御するだけである。
しかし現実には、倒産企業は出るし、実質赤字の会社が7割を超えると言われている。
どうしてなのであろうか。
今回は、暗いテーマであるが、企業倒産を論じてみて、その中から建設業経営を強化する糸口を掴んでいきたいと思う。
◆ある倒産
以前のことになるが、筆者の友人の建設会社が倒産した。
彼は革命的な経営者であった。
「親から継いだままの形態では早晩だめになる。
チャレンジすることが大事だ」と、新たな市場創生に積極的に投資した。
仲間内でも評判になるほどの先進的な経営を展開した。
その甲斐あって、父親から受け継いだこぢんまりとした建設会社を、その地区で一番の会社に成長させた。
一方で、彼は典型的な二代目経営者であった。
御曹司という言葉がぴったりと当てはまる経営者であった。
付き合いの派手さは人もうらやむほどであった。
経済情勢が順風の時はそれが効を奏し、事業は伸びた。
しかし、経済情勢が反転し経営環境が一変しても自分の経営を変えることが出来なかった。
挫折を経験した事がない者にとって撤退戦ほど苦手な戦いはない。
これは二代目経営者に限らず経営者共通の心理であると言える。
彼は手を打たなかったわけではない。
しかし、前へ向う姿勢を転換することが出来なかった。
いよいよ追い込まれて止むを得ず打つ手は全て後手に回る。
ついに筆者のところにも彼から要請があった。
「5億円貸してくれ」。
会うなり、彼はこう切り出した。
「何のために」という問いに「今月末の手形が落ちない。
何とかしてくれないか」というお決まりの文句。
筆者は突き放すしかなかった。
「それで今月を凌いでも、来月はまた同じことの繰り返しだろう。傷が深くなるだけだ。もう諦めろ」。
彼は憤然と席を立った。
その後、数人の親しい経営者仲間から相次いで電話が入った。
彼らにも同じ要請をして断られたのである。
その月の月末、彼の会社は不渡りを出し倒産した。
(1)倒産後の心境
倒産から一年あまり経ったある日、彼と話す機会があった。
その頃、筆者は某業界紙にコラムを連載していた。
その取材のためである。
その時のやりとりを以下に再現してみた。
コラムでは 発言を脚色して書いたが、ここでは、出来る限りその時の言葉で再現してみた。
A(筆者):「ひさしぶりだね。ところで、倒産で心境が変わったか?」
B(元経営者):「その一瞬だけ変わったよ。でも環境や状況で変わってはいけない
と思うようになってきた。
自分がやってきた経営がダメになったのだから、人間としての
生き方の要素は変える必要はある。
しかし、その他のことは変えられない。
自分を全部否定したらだめになる。
これから先は自分を信じて生きていくしかないと思っているよ」
(2)倒産の最大要因
A:「倒産の最大要因は?」
B:「資金につきる。どんなに力があろうと資金がなければダメだ」
A:「では、その資金を止められた最大の要因は?」
B:「いくつものことが並行要因だけれど、優良企業で資金回収が容易な企業が止め
られやすい、と言えるね。
ここから先は経営者に対する忠告だけれど、とにかく回収しやすい状況を作っ
てはいけない。
極端な意見だが、銀行とはお互いに良い人であってはいけないと思うよ」
A:「お互いにビジネスという冷徹な認識を持て、と言うことかな」
B:「うん、建設会社は利益が上がってもそれほど評価されないね。
逆に、売り上げが落ちると銀行から「だめ」を食らう。
こういう状況になると、資金を止められるか止められないかは天命みたいなも
のだよ。向こう(銀行)の領域に委ねられた以上は、止められても仕方がない
と思うしかないね」
※ちょっと一言
筆者の支援者の一人で、大手銀行の支店長を歴任し、役員として定年を迎えた人がいる。
先日、その人からこんなアドバイスを受けた。
「銀行の言いなりになってはいけないですよ。必ず潰されますよ」
筆者も、恥ずかしながら、上記の忠告にあるとおりの苦い経験をしている。
資金調達は経営者の仕事である。
多方面から情報を仕入れ、自分の意思を固めて臨むことが肝要といえる。
(3)ギリギリの局面に立たされた時
A:「会社がギリギリの局面に立たされた場合のアドバイスは?」
B:「いざと言う時は単純な手しか使えない。
つまりキャッシュフローの向上しかない。
短期的には借り入れを増やすことだ。
それも銀行を騙して担保設定より多く借りることだよ。
その他には、手形の回収を早めたり、支払を繰り延べしてもらったりの泥臭い
資金繰り手法しかないね。
これがいやだと思ったら経営をやめるしかない。その点、自分は甘かった。」
ここで意地悪い質問をした。
A:「では、再び経営する機会に恵まれたら、君はそれを行うか?」
B:「いや、ビジネスチャンスがあって借り入れが出来ても、もう嫌だね。
これが一番考えが変わった点だよ。昔は回せるものは回そうとしたけれど・・・」
やはり、心の傷口の深さが痛切に感じられた。
(4)マイナス状態での守り
A:「倒産で悟ったことをもう少し話してくれないか」
B:「自社の事業構造を変えようとはしなかった、というより変えられなかったな。
新規事業すら古いものをひきずっていたよ。
その結果、事業の目標が量とか規模の拡大になってしまい、いつしか事業構造が古い財布を消化する仕組みに変化してしまった。
そうして、100%守りになってしまっていたよ」
A:「企業がマイナス状態に陥っている時、守りだけでは救えないね」
B:「全くその通りだ。でも守ればマイナスを消せると勘違いしていた。
攻撃するしかなかったのにね」
(5)マイナス状態での攻撃
A:「マイナス状態での攻撃とは?」
B:「勝負することだ。銀行と対峙して借り入れを切り捨てるとか、徹底的にリスト
ラして現金を回せるようにするとかだよ」
A:「君は、つぶれる前に、なぜその考えに至らなかったのか?」
B:「渦中の中での転回は難しいよ。外的なバックアップが必要だ。
支援なくして攻撃に移行することは難しいね。
やはり守ろうという思考になってしまう」
(6)企業経営を客観的に眺めて
A:「今、企業経営を客観的に眺めて言えることは?」
B:「社員を守るためとかではなく、経営者がやろうとしていることに価値があるか
どうかが生きる分かれ目だと思う。
その上で、うまくいかないことは認めるしかなく、手段を選ばない経営を行う
しかない。その時その時で最適と思う判断をして何度でも実行するしかない。
ある人に倒れる前に言われたよ。
『人間は同じ間違いを三回繰り返す。そして倒れる。おまえもだ』と」
(7)倒産の危機に見舞われた場合
以上で取材は終わった。
倒産は経営者にとって悪夢である。
筆者の知り合いの経営者たちの中にも倒産した者が少なからずいる。
その後、再起を果たした者もいるが、多くは今も苦しんでいる。
筆者は倒産の経験はないが、何度かその寸前までいった。
一度は、事実上倒産の憂き目も見た。
一方、子会社の倒産は経験した。
そこの経営を任せていた者は倒産寸前に姿を消し、家族ともども今も行方不明だ。
生きているらしいということだけが救いだ。
そのような経験や友人たちの話から、倒産の危機に際しては、以下のことを冷静に考えてみることを勧める。
①自分の会社への思いを封印して、会社を隅々までクールに調べ上げる。
②入りを増やす算段より、出を縮小する手段を直ぐに実行する。
③労使関係を立て直す。
多くの企業で労使の価値観がずれている。雇用責任という大企業論理を中小企業に持ち込んだら必ずだめになる。
社員を自分(つまり経営)に近づけさせることが中小企業の経営である。
④行うことのすべてを今までと逆にしてみる。
今まで良いと思っていたことを止め、悪いと思っていたことを行う。
それを表面は笑いながら実は命懸けでやる。
⑤勝てる相手としか戦わない。
自分より弱い相手を探し、そして勝つ。
勝って強くなってからその上の相手と戦う。
勝てるかどうかは武器と環境で見極める。
戦う戦場を入念に選び、その戦場で有効な武器を手に入れる。
そのうえで、勝つためのロジックを組み立てる。
それらが一つでも不可能であるならば、なりふりかまわず、すぐにその戦場から撤退せよ。
⑥すべての状況を楽しむ。たとえ、倒産の場合でも。
修羅場は人間を大きくしてくれる。
だから、成功しなくても良い。
成功しなくてはいけないと思うこと自体が自分の価値観を狭めている。
「倒産の瞬間を楽しめ」と言われても、実行するのは難しいけれど、倒産だって人生の点みたいなもの。
社会に迷惑をかけるが、自分がより大きくなって貢献することを考えるべきである。
貴方が経営者であるならば・・・。
<あとがき>
次回は、専門工事会社の経営について論じてみようと思っている。
ゼネコンの方にも参考になることは間違いない。
乞うご期待!