第3回:建設会社の経営(1)

2007.10.01


◆しぶとく生きる

受注額と粗利の減少により中小建設会社の固定費の割合が増加傾向にある。
このため損益分岐点が上昇し、一段と経営が苦しくなっている。
大手建設会社は大幅な人減らしの実施等で固定費を下げ、かつては9~10%台あった固定費率が人員削減効果により現在は5~6%台に落ちている。
その結果、地場建設会社との間の価格競争力に大きな差がついてきている。
特殊技術でも持たない限り、大手と真っ向勝負して勝てる地場ゼネコンはほとんどいないのではないか。

今や、公共工事中心の地場建設会社を守っているのは「官公需法」だけと言っても過言ではない。
だから、大手が画策している官公需法外しが現実になったら、多くの地場建設会社の経営は行き詰るであろう。
これに対し、これと言った強みを持たない会社はほとんど打つ手がない。
それでも経営者たる者、手をこまねいているわけにはいかないのである。
固定費を削減し、利益を生まない資産を処分し、社員を強化し、自社を競争に堪え得る体質に変えて、生き残る道を模索しなくてはならないのである。
固定費の削減に踏み切る場合、どうしても人件費の削減に手をつけざるを得なくなる。
経営者としては最も抵抗のあるところであろう。
たしかに、雇用を守ることは地場建設会社の大切な役割である。
しかし、どんな形になろうとも生き残ることは、それよりも大切な経営目的のはずである。
雇用を守る事も会社が存続してこそ出来ることである。
「営業が伸びなければ固定費を下げる」。
これは経営手法の鉄則の一つである。

建設市場の規模の縮小は止まっても、利益の減少は続くと思ったほうがよい。
民間市場は横ばいか若干の持ち直しもあるであろうが、公共市場は厳しい。
景気対策での上積みは一過性のもので、中期的には下がり続けると予測したほうがよい。
いずれ底を打つが、それまで、経営者は腹を据えて「しぶとく生きる」しかない。
どんな姿になっても良いからしぶとく生きる道を探すことである。
無念にも、いったん倒れたとしても、何度でも立ち上がり、しぶとく生きる事である。
だから、人件費を下げることくらいでめげてはいられない。
「しぶとく生きる」ことに対し腹が据わったならば、以下の章を読んで欲しい。
 

◆自社の進むべき道を示す

これまで、多くの建設会社は経営の方向なんてあまり考えてこなかったのではないか。
せいぜい元請になるか下請になるか、あるいは自社施工か外注施工かぐらいの選択肢しか考えてこなかったのではないか。
いや、それは正しくない言い方である。そもそも我が政府が考えさせないようにしてきたのである。
金太郎飴のように同じゼネコンばかりを大量生産したのは政府の政策である。
それは、どの建設会社が施工しても、同じようなものが同じ品質で出来ることがこの国にとって必要だったからである。
何のために? ・・・

「 国土の均衡ある発展のために」 なんて言う建前は誰も信じないであろう。
真の理由は、発注者の「我が身大切」の意識にある。
つまり、発注者が発注に対する責任を負わなくても良いようにするためである。
入札に参加する会社がみな同じような会社ばかりであれば、どこが落札しても施工の程度は同じになる。
つまり、その会社を選択した発注者の責任は問われなくなる、というわけである。
ついでに、ある程度過分な利益を容認しておけば、問題が生じた場合、落札企業だけでなく、業界全体が面倒を見てくれる。
だから、談合を容認してきたのである。

誤解なきようお願いする。
筆者は談合の是非を論じているのではない。
また政府批判をするつもりも無い。
この国のこれまでの建設の世界をありのまま解説しているだけである。
そして、この官民一体のシステムが機能しなくなりつつあることを指摘したいだけである。
官民の密月が続いたのは、工事量、利益ともに豊富にあったからである。
その原資がどんどん先細りになる時代は、秩序無き競争に陥る危険性がいたるところに生じている。
現にそうなっている地方が増えつつある現状である。

そのような競争社会が到来すれば、弱い会社から順番に消えていく。
弱い会社とは、「財務力や技術力が劣っている会社」ではない。
経営者が、自社の進むべき道を内外に示せない企業のことである。
自社の価値を上げたかったら、何でもよい、経営者が自分の口で「○○の道が我が社の進むべき方向だ」と何度も言う事から始めなくてはならない。
何もカッコよい道である必要はない。
「県下で一番の舗装会社になる」、「この町で最も給料のよい会社になる」、「この地域で一番出社時間の早い会社になる」・・・などなど、経営者の本心の言葉である。
ポイントは「一番になる」である。
どんなことでも良い、また狭い地域で良いから、何かで一番になることを宣言するのである。
 
◆新しい市場は開けるのか

既存の建設市場は縮小する一方であるが、新たな市場も生まれつつある。
以前から言われているリフォーム市場やシルバー市場もそのひとつであるが、これからの市場は非常にエンドユーザーに近いところに出来ると考えたほうが良い。
マンション不況の中でも大都市圏の高層マンションは比較的好調な売れ行きである。
あれは住居を売っているというより、一つの街の住民になる権利を売っているのである。
価格が下がったことも大きな要因であるが、「今までに無い街」のイメージが売れているのである。

しかし、高層マンションのように大きな資本が必要なものは、中小建設会社にはとても手が届かない。
ゆえに、既に新市場にチャレンジしている企業でも、大半はリフォームやシルバー産業への進出などに限定されている。
普遍的な新しい市場が本格化するのは、まだ時間がかかる。
だが、確実に変化がくることは確かなのである。
では、この新しい市場に挑戦していくべきなのか、それとも危険過ぎるので見送るべきなのか。
企業経営者として答えを出さなくてはならない。
しかし、この問いに一般的な答えを出すことは非常に難しい。
一つヒントを示そう。

判断基準を経営者自身の人脈と社員の質の掛け算で考えてみることである。
この両者の質が高ければ、新市場での成功率は高くなるが、そうでなければ必ず失敗するであろう。
しかし、「ダメだ」と嘆く必要はない。
経営者自らの社外との付き合い方を変え、人脈を再構成し、かつ社員のプロ化を進めていくことで活路は開ける。
社員の入れ替えを恒常的に行なう事も社員のプロ化の一つの方法である。
人(社員)はそれぞれ適性が違う。
このそれぞれの適性を十分に発揮する場を提供することが経営である。
そしてこの場を作ることが営業である、という原点に戻れば結論を出せる。
結論が出たら迷わずそちらの道を進めばよい。道の修正を難しく考えることはない。
間違えたと思ったらすぐに引き返せばよい。
そして次の挑戦の準備をしよう。
それが出来てこそ、これからの経営者である。
 
◆改革の難しさ

新市場を切り開く場合は勿論、本業特化で生き抜く決意を固めた場合でも、
今の経営の姿を続けられる会社は皆無であろう。
今の時代、どうしても経営改革が必要なのである。
しかし、この改革がうまく進行している企業は少ない。
なぜに、経営改革はこのように難しいのであろうか、そのポイントを論じてみる。

ここで考えてみてほしい。改革とは不安定状態を作り出すことである。
どれほど悪い社内体制、社内風土であろうと、それにより恩恵を受けている人たちがいて、それなりに安定しているのである。
もし、だれ一人恩恵を受けている人がいなかったならば、その状態が続いているわけはないのである。

まず、このことを肝に銘じておかなければならない。
経営内容が悪いにもかかわらず現状の状態が続くということは、かなり強い人的要因が社内に根をおろしていることを意味する。
それはそれで安定状態なのである。
経営改革とはその安定状態を壊し不安定状態を作り出すのであるから、効果があがるほど抵抗が激しくなるのは当然である。
改革の成功のためには、この圧力の打破が必要であるが、実はここが一番難しい。
多くの会社の場合、最大のガンは上級幹部および経営層そのものにあるからである。
だから、改革の道を開けるのは経営トップの決断しかない。
トップが勇気を持って改革を支え、幹部や経営陣をリードしてくことでのみ改革は進行する。
不安定状態を作り出すことを恐れてはいけないのである。
 

◆経営理念

ここまでの論調と相反することと思われるであろうが、筆者は、経営とはかなりシンプルな世界であると思っている。
経営の根幹には数字と人事しかない。
もっと下賎な言葉でいえば、「金勘定を合わせ、人を利益を生む方向に動かす」ことに尽きる。
だから経営者は、自分のやりたい経営をもっと簡単に表現すれば良いのである。
しかし、簡単とは言っても、社員が理解し行動を起こせるような表現でなければならない。
それが経営理念と言えるのかもしれないが、多くの会社の「経営理念」はカッコよすぎて、模範解答みたいでつまらない。
つまり経営者の本音が出ていないのではないかと思う。
もっと平易な言葉で、A4用紙1枚ぐらいに、こんな風に書いたらどうであろうか。

「私は儲けたい。みなさんにも儲けて欲しい。だから、こんなことをやろう、こんなこともやろう。こんなことも・・・。 だけど、こんなことはまずいし、これは最悪だ。

みんなの知恵を集めて、一緒に動いて、共に利益を作っていくことをもっと話し合おう。そのために、みなさんにお願いする。以下のことを実践してください 。1・・・2・・・」

簡単に出来ることを一緒にやっていく社員に分かるように説明し、行動させる。
そして、決断を早く、展開を早くして、金勘定を合わせていく。
これが経営ではないかと思う。

 
<あとがき>
経営者の敵は「恐怖」「見栄」「焦り」である。
そうは言ってもこれらの感情は心の奥底から湧いてくるものである。
であれば、この3つとうまく付き合うことも経営のポイントである。
今回の内容はその方法の一端とも言えるのでは、と思います。