第4回:早撃ちガンマン

2008.04.01

 
 
 
今回は、偉大な科学者の小さな実験の話を題材にしよう。
 
デンマークが生んだ天才原子物理学者、ニールス・ボーアをご存知かな。
「量子力学の父」とも言われ、あのアインシュタインの終生のライバルとも言われた学者だ。

ちなみに、アインシュタインがノーベル賞を受賞した翌年、ボーアも同賞を受賞している。
「物理学者とガンマンが、どう関係するんだ」ですか。


実は、ボーアは西部劇の大ファンで、西部劇の決闘シーンに夢中になっていた。
現代は西部劇も下火になり、若い方は「決闘シーン」と聞いてもピンとこないかもしれませんな。
では、ちょっとだけ解説しよう。
(若くない方は退屈なので、以下は読み飛ばしてください)

西部劇の「決闘」とは、正義の味方と悪漢とが1対1で、以下の手順(ルール?)で拳銃を打ち合うことである。
  ①互いに向き合い、歩き出し、次第に距離を詰めていく。
  ②10m程度の距離でどちらともなく止まる。
    この時点まで腰の拳銃を抜いてはいけない。
  ③相撲の立会いのように、お互いの呼吸を見計らい、

ほぼ同時に腰の拳銃を抜き、打ち合う。

 ④距離が近いので、早く拳銃を抜き、打ったほうが勝つ。

昔懐かしい西部劇では、この決闘シーンがハイライトであった。
レンタルビデオなどで『真昼の決闘』などを見てもらうと、よく分る。

ところで、西部劇の決闘シーンでは、以下の定理(法則)が存在する。
1.腰の拳銃を後から抜いたほうが必ず勝つ
2.先に抜くのは悪玉、後から抜くのは善玉

ここで考えて欲しい。
決闘というのは、撃つことを待つ必要はない。
だから、後から抜くのは不利なはずだが、映画では必ず上記の定理どおりになっている。
これには以下の二通りの理由が考えられる。
1.映画は勧善懲悪の筋書きだから
2.なんらかの実際的根拠がある
     (先に抜くのは本当に不利だ、という理由)

そこで、ボーアは実験をしてみた。
ここが並みの人間と違うところである。
並の人間が、そんなこと考えますか?
では、その実験とは何か?
ボーアは、ふたりの助手に『ピストルで決闘させた』のである。
といっても、水鉄砲による決闘であるが・・・
その結果は、なんと、
『後から銃に手を伸ばしたほうの勝ち』
だったのである。
「ほんまかいな?」と思わず、先を聞いて欲しい。

この理由には以下のことが考えられる。
1.相手を撃とうと考えてから手を動かすと、そこに一瞬の遅れが生じる
2.後から手を伸ばすほうは、敵の動きにせまられて間髪を入れずに反応する

つまり、
【 体で考える=早い 】 : 【 頭で考える=遅い 】
というわけである。
これを、『受け身の能動性』 と言い、今では理論付けられている。

道場で稽古を重ねるのは、このためである。
頭で理解することだけでは強くなれない。
体が反応するまで反復練習を繰り返すことが必要である。
脳も体の一部であるから、この理屈は当てはまる。
脳の反応を早くしたかったら、
本道場での稽古をこれからも続けていくことですな。

<エピローグ>
デンマークは小さな国である。フランスやドイツといった強国に挟まれ、それでも中立国として生きてきた。
軍事ではなく知恵で生きてきた国といえるであろう。
ユニークな玩具、レゴ・ブロックもデンマーク生まれである。
携帯電話もデンマークが発祥と聞く。
偶然の産物ではない。