第2回:日本の株価と国債(その1)

2012.01.28


財務省は、2011年の貿易統計速報で、貿易収支が2兆4927億円の赤字となったことを発表しました。
2010年の6兆6347億円の黒字から、昨年は1980年以来となる31年ぶりの赤字となったわけです。
1980年は第2次石油危機、2011年は大震災、原発事故、タイの洪水と、それぞれ突発的出来事が主因ですが、31年前は短期間で赤字を抜け出しました。果たして今回はどうでしょうか?31年前に比べ、より深刻な状況にあるといえます。
「おいおい、この連載は『日本復活』じゃないのか!」って突っ込まれそうですが、まあ、今回もお読みください。今回は「国家の財テク」の話をします。といっても、多くの読者の方には「釈迦に説法」だと思います。退屈と思われた方は、読みとばしてください。

目次
----------------------------
◇貿易収支と所得収支
◇経常収支が赤字になると
◇国債と株式の違い
◇米国国債と日本国債
◇日本国債は安全?
◇国債の種類
◇国債の価格と利回りの関係
◇国債の問題点
◇日本国債の中身
◆自虐史観も神国日本観も同じ
----------------------------

[第2回:日本の株価と国債(その1)]
◇貿易収支と所得収支

説明するまでもなく、貿易収支とは輸出額と輸入額の差額である。
輸出額=売上、輸入額=仕入れと考えれば分かりやすい。
これが赤字ということは、日本国株式会社の営業利益が赤字ということである。
それでも、所得収支(「金融収支」とも言う)は黒字なので、企業の経常利益に相当する「経常収支」は黒字になっている。
「なら、安心?」。 そう、当面は大丈夫。
貿易収支の赤字額を上回る所得収支が確保できていれば、経常収支は黒字になるから(下図を参照)。

[第2回:日本の株価と国債(その1)]
しかし、この状態は、「本業は赤字だが、財テクで黒字にしている」状態である。
企業経営にたとえたら健全とは言えない。
工業製品を作り、その売上で食べていた日本国株式会社という企業が、本業が赤字になって財テクで食べているわけである。
このまま、日本は「財テク国家」になっていくのであろうか。

しかし、2008年のリーマン・ショックの後始末も出来ないまま、欧州債務危機などで世界の金融市場は低迷を続けている。
実際、日本の所得収支も2008年には年間15.8兆円もの黒字だったが、近年は黒字幅がどんどん減少している。
このまま貿易収支の赤字が定着すると、「経常収支も今後5年程度で赤字に転落する」との予測も出ている。



[第2回:日本の株価と国債(その1)]
◇経常収支が赤字になると

経常赤字とは、海外から借金しないと日本経済が成り立たない状態を指す(下図を参照)。

[第2回:日本の株価と国債(その1)]
現在は、大半を国内資金で買い支えている日本国債も、海外投資家に買ってもらわないとさばけなくなる。
海外投資家はいろいろな国を比較して投資先を決めているから、巨額の財政赤字を抱える日本の信用力が低いと判断すれば、日本国債は売られ、金利が上昇する。
そうなると、企業の設備投資に必要な借入金や住宅ローンなどの負担が重くなり、景気は一段と落ち込む。
消費増税を柱とする税と社会保障の一体改革は迷走気味だが、貿易収支の赤字転落は、財政再建が待ったなしの段階に入ったことを示している。



[第2回:日本の株価と国債(その1)]
◇国債と株式の違い

国債と株式はともに金融商品である。
国債は「借金」で株式は「投機」である。
投資家はリスクと儲けの両面を考えて買う。
借金である国債は原本が保証されている安全な金融商品である。
一方、株式は、返済の義務のないリスクの高い金融商品である。

しかし、保有する株価が上がれば大儲けも夢ではない投機商品である。
買い手は、個人、機関投資家(保険会社、金融機関、ファンドなど)、および国家である。
安全を取る(国債)か、リスクはあっても大もうけを狙う(株式)か、ということである。
だから、経済が良くなると、儲けを狙って株式市場に人気が集まる。
相対的に国債の人気は低下し売られる(利回りは上昇する)。
不況になると、その逆に安全を狙って国債に買いが集まる。
だから、国債は売れるのである。

だが、安全なはずの国債が、満期が来ても返ってこないとなったらどうか。
これを「デフォルト」というが、国債は一気に信用を失う。
その上、その国債を買っている機関投資家や国家が大損をする。
その連鎖反応が起きたら一気に世界恐慌へと突入する。株式の暴落より怖い。
たかがギリシャのデフォルトを欧州がなんとか回避させようと必死なのは、この理由である。



[第2回:日本の株価と国債(その1)]
◇米国国債と日本国債

日本に比べると米国の長期金利(国債10年もの)の動きは早い。
史上最低の1.7%台が、いつの間にか2.14%まで上がってきている。
しかし歴史的に見ると、2.14%でも米国の長期金利としては低い水準である。
つまり、それほどまでに米国債は買われているのである。
欧州の金融危機や世界景気の減速感などで、世界のマネーは、資産をより安全なものにシフトさせよう
という動きが加速され、その結果、米国債が買われているのである。
目を日本に転じて見よう。
日本の10年もの長期国債の利回りは0.99%である。
やはり歴史的に低い水準にある。
つまり、それだけ安全な債権ということになる。

しかし、国の財政状況は先進国中ダントツの最低水準である。その巨額な国債発行残高からすれば、
とても安全資産とはいえない。現に、日本国債の格付けは連続して引き下げられている。
ということは、「信用度は下がっている」のである。だが、日本国債は暴落の兆し(きざし)もない。

[第2回:日本の株価と国債(その1)]

[第2回:日本の株価と国債(その1)]
◇日本国債は安全?

「国の財政状況は破滅的なのに、その国が発行する国債は安全資産」という矛盾を解くカギは、「日本国債は国内の投資家によって発行残高の95%前後が所有されている」という点にある。
しかも、そのほとんどが銀行、保険、郵貯、年金などの手にあり、彼らが売りに転じない限り国債の値崩れは起きない。
だから、国内の機関投資家たち国債の保有者は、国債を安全な投資資産と決め込んでいるのである。
実際、5%前後の海外の投資家たちが売り浴びせたとしても、なんら影響は無いであろう。
これを「やはり、日本国債は安全なんだ」と考えるのは自由である。

ただ、ここで過去の教訓を少し思い出して欲しい。
1980年代後半のバブル時期、やはり日本の投資家は「日本の株式は安全だ」と言っていた。
当時、総発行株数の54%が持ち合いや銀行などの政策保有、18%が年金や特金など機関投資家の保有であった。
そして、彼らは「日本の株式市場は、自分達が売らない限り値崩れは起きない」と豪語していた。
その彼らがである。

1990年が明けてからは、われ先に売り逃げて日本の株式市場は大混乱、株価は60%もの急落をきたしたのである。
結局、一番損したのは、市場の過半を支配していたその彼ら(大企業や機関投資家)自身だったのである。
国債と株式の違いはあれど、金融商品という点では同じである。

[第2回:日本の株価と国債(その1)]

[第2回:日本の株価と国債(その1)]
◇国債の種類

日本の国債の種類は、以下の2種類である。
(1)赤字国債:国の税収では足りない赤字を埋めるために発行する =損失補てん
(2)建設国債:橋や道路等を作る公共事業の執行のために発行する =固定資産投資

償還期間で区分する場合は以下の4区分が一般的。名称は一般名称で正式名ではない。
(1)短期国債(1年以内)
(2)中期国債(2~4年)
(3)長期国債(5~10年)
(4)超長期国債(10年以上)

現在、発行されている国債の大半は「10年物長期国債」である。
この国債の利回りは銀行の貸し出し金利に大きな影響を与えている。
この金利が上昇すると企業向け融資や住宅ローンなどの民間の金利も上昇する。
米国では30年物長期国債が有名で、やはり民間の金利指標になっている。



[第2回:日本の株価と国債(その1)]
◇国債の価格と利回りの関係

国債の価格が下がると、利回りは上がる。
どうしてか?
国債の人気がなくなると、買い手が買い易くなるように「値段が下がる」。
また買い動機を促すために「利回りが上がる」というわけである。



[第2回:日本の株価と国債(その1)]
◇国債の問題点

国債の発行残高は、平成23年度予算の段階で約668兆円になっている。
財務省の試算によれば、1%の金利上昇で国債の元利払い負担は1兆2000億円以上膨らむ。
この額は消費税率のほぼ2%分にあたる。

景気回復が望まれているが、今の状態で景気が回復すると、長期金利は上昇し、国債の利払い額はその分増える。
税収がそれ以上に増えないと、破たん状態に近い国家財政をさらに悪化させるのである。
なんという矛盾か。政府はどこまで考えているのやら・・・


[第2回:日本の株価と国債(その1)]
◇日本国債の中身

さて、668兆円もの日本国債を保有しているのは、いったい誰なのか?
右図を見て欲しい。
政府系機関(郵貯、簡保、年金、日銀)で56%、銀行、保険業界で28%、合計84%が安定保有者である。
ムーディーズやS&Pの格付機関が日本国債の格付けをどう落とそうが、この図式で日本国債は暴落を免れているのである。
不安定な保有者である海外投資家は、たったの7%なのである。
「なんだ、心配することなんかないじゃないか!」と言いたい?
では、もう少し中身の考察を進めよう。

[第2回:日本の株価と国債(その1)]
第1位:郵便貯金

国債(政府の借金)の最大のお得意様は郵便貯金である。
金額にしてざっと150兆円。
みなさんたち日本国民1人1人が郵便局にせっせと貯金してきたお金である。


第2位:銀行

2番手は銀行である。
約120兆円になる。
銀行預金も国民がせっせと貯め込んだ財産である。
このカネは、本来、企業融資などに活用されるべき金だが、景気低迷、デフレにより銀行が企業にカネを貸さず、
結果として、民間の活力にはならずに消去法的に国債購入に向かっている。
このうちの10%、12兆円が中小企業融資に向かうだけで景気の上昇力になると思うのだが・・


第3位:年金

公的年金や年金基金から、100兆円を超える金額が国債購入に充てられている。
ただでさえ、ずさんな管理により「消えた年金」が騒がれているが、国債が暴落すれば、
本当の意味で「年金」が消えてなくなるのである


第4位:保険、第5位:簡保

生保・損保が約10%、簡易生命保険が約9%である。
国民は、これらの保険を通して日本国債の約2割(約140兆円)を買い支えている。

つまり、これら全てが、実は国民のカネである。
政府が、上記機関にカネを預けている個々の国民には黙って、勝手に(?)カネを引き出し国債を買わせているのである。
まあ、その政府を選挙で選んでいるのは国民だから、自業自得といえばそうなのだが・・・


エピローグ

次回は株式の話をして、その後に日本復活の本筋の話を展開していく予定です。
この先もどうか御笑覧ください。



[第2回:日本の株価と国債(その1)]
◆自虐史観も神国日本観も同じ

筆者は国粋主義者ではない。その観点から「自虐史観」を解説しているわけではない。
一方だけに傾いて歴史を眺め、現代を論じることの危険性を指摘しているのである。
戦前の日本では、多くの国民は「神国日本」を信じ込んでいた。
「無敵の連合艦隊を有する日本にとって米国など相手にもならん。戦争で一気にケリをつけるべき!」と、いきり立っていた。
現代から見れば「ばっかじゃないか!」と言いたいが、それは結果を知っているからである。
その時代の国民になってみれば、多くの人は同じことを言うではないか。

私の母から聞いた話である。
敗色濃厚となった昭和20年においても、多くの人は
「今に神風が吹く。神風が吹いてアメリカの船をみんな沈めてくれる」
と真顔で言っていたそうである。
650年以上も昔の元寇の出来ごとと近代がごっちゃになっていたのである。
「近代の軍艦が台風で沈むか?」という冷静な思考さえ失われていたのである。

戦後は、その裏返しで、一気に自信喪失状態になり、「とにかく日本が悪いんだ」となってしまった。
いわゆる「1億総ざんげ」である。
外交とは戦争である。
弾丸の代わりに言葉で相手を攻撃する戦争なのである。
日本の自虐史観に乗って、中国、韓国は徹底的に日本を攻め立てる。
その結果、日本はただ謝るのみ、という関係が固定化してしまった。

断っておくが、中国、韓国が悪辣(あくらつ)なのではない。
両国とも、外交戦略上、当然の行為をしているだけである。
日本は、政府だけでなく、国民の腰が砕け、応戦できなくなっているのである。

この主因は、戦前の「神国日本」の思い上がった国民意識にある。
その分析も反省もなく、戦後は、それが真反対に反転し「自虐史観」に変わったのである。
ゆえに、この自虐史観から脱却し、中国や韓国に対してはもちろん、米国やロシアなどの国家と堂々と外交で渡り合う国家にならない限り、未来の日本は作れないのである。

「掲載した写真の出典:wikipedia」