第5回:3月19日現在

2011.03.19


塾生の諸君、ここまでの経緯は理解できたであろう。さすが本道場の塾生じゃな。
もう一歩、踏み込んで考える能力を付けてほしい。
最後までよーく読むんじゃぞ。
 
19日の報道から、現在の様子を解説する。

【報道は偏っていないか?】

あえて言いたいのが、報道の偏り(かたより)です。
この原発事故で避難されておられる方々には申し訳ありませんが、
地震被害のほうがはるかに深刻なのです。
1万人を超えようかという犠牲者の悲惨さ、
そのご家族や縁者の方の嘆きが、原発報道の合間に断片的に報道されるだけです。
緊急援助に対する政府の対応や今後の復興に向けた方針などがさっぱり報道されません。
もっと地震報道にも力を入れることを希望します。
その意味で、本脳内道場の臨時回も、今回でいったん終了します。




【放水の効果はあったか?】

懸命の放水を続けている現場の方々には頭が下がる。
その効果も出てきて、3号機は最悪期を脱したようである。
放水時間が長くなってきたことは、周囲の放射能レベルが下がってきたのではないかと思う。




【電源の回復状況は?】

切り札の電源回復作業も進んでいるようで、5、6号機は、ほぼ安全状態になったとみてよい。
上昇していた燃料プールの温度も下がり始めてきた。
1~2号機も、間もなく電源が復活する見込みである。
これで、冷却機能が回復すれば、ほぼ危険は去る。
また、3~4号機の電源復活の可能性も高まるといえる。



【冷却設備は動くのか?】

「電源が回復しても、冷却設備類が津波をかぶって動かないのでは?」との懸念があるが、
動く可能性のほうが高いと思う。
(もちろん、断定はできないが・・)

前々回から流用させてもらっている以下の図で確認して欲しい。
ECCS(緊急炉心冷却装置)や冷却水ポンプなどの重要機器は、頑丈な格納容器内に納められている。
各号機の格納容器は、地震や水素爆発による破損もなく正常に保たれていると推定される。
(2号機の爆発は下部の「圧力抑制室」とみられる。格納容器に連結されているので格納容器への影響がないとはいえないが、容器内の設備類にまで破損が及んでいるとは思えない)

さらに、写真でみる限り、水素爆発で吹き飛んだ建屋上部の破損はひどいが、破損は下部にまでは及んでいないように見える(正確には不明だが)。
重要機器は無事ではないかと思える。

もっとも、電源を通電してみないことには確かなことは言えないが。


【4号機の状態が悪化している?】

3号機へ放水を集中させたせいで、4号機が放置状態になっている。
4号機の燃料プールには水があることが確認されたためである。
(公開された写真では、よく分からなかったが)

しかし、4号機の燃料プールには、使用途中の燃料棒が一時保管されている。
これらの燃料の熱エネルギーはかなり高い(使用済み燃料の3~10倍)。
それによって燃料プールの水が干上がる危険が出てきた。
ただ、4号機への放水も行うということなので、放水が始まれば効果が出てくるであろう。






【共用プールに危険はないのか?】

一時、不安が報じられた4号機の隣にある共用プールは安定状態にあり、心配はないようである。



 
【終息はいつ?】

なかなか難しい質問である。
電源が回復すれば、危機的な状況は終息すると思う。
早ければ3月中と言ってもよいが、これは楽観論である。
電源が回復しても設備が動かない場合、設備の修理(あるいは交換)が必要となる。
放射能レベルが下がらないと屋内での作業は出来ないと思われるので、
その場合は、しばらく放水を続けて、放射能レベルを下げてからになるであろう。
そうなると、かなりの長期(数か月単位)になると思われる。





【現場の作業員に健康障害が出ないか?】

複数の作業員の放射線被ばく量が、緊急時の限度の100ミリシーベルトを超えたという。
厚労省は、今回の事故対応にあたっては250ミリシーベルトまで被ばく量の限度を引き上げることを認めている。
放射線の影響度は個人差が激しく一概にいえないが、500くらいが本当の危険領域ではないかと思う。
ただし断わっておくが、これは自分が浴びた線量を基準に考えている限度である。





【一般人に被害は出ないか?】

若干の被ばくをされた方が出たようであるが、全く心配は要らない。
また、一般人に被害が出ることは、ゼロではないが、ないと断定してよいと思う。
まして、東京を含む首都圏の被害は、風評被害だけである。


 
【原発の周囲にはもう住めないか?】

今の段階で断定はできないが、半径3km以遠は問題なく住めると思う。
3km以内であっても、原発のごく近くを除けば大丈夫と思う。
原発の近くは、放射能レベルが安全レベルまで下がる時間が問題である。
この期間は、今は予測できない。




【この原発はもう使えないか?】

技術的には、修復・再稼働は可能と思う。
地震があった時、原子炉が停止していた4~6号機は、炉心に海水を入れていないので、短期間で復旧は可能。
海水を入れた1~3号機はかなり厳しい。塩分の影響で内部の機器が使えなくなる可能性が高い。
機器の交換および圧力容器内の洗浄で、理屈の上では再稼働可能となるが、
炉心内の燃料棒が溶融したとすると汚染は深刻で、廃炉の可能性は高い。
それより、本原発の再稼働を許さない国民感情が強くなるであろう。
政治的配慮が優先される可能性が高い。




【いわき市に対する誤解】

福島県いわき市が風評被害にさらされている。
市の北部の一部が原発から30km圏内に入っているため、いわき市全体が危険視されている。
物資を運ぶトラックの運転手が市内に入ることを拒否したとか、タンクロータリーが来たが運転手が降りようとしないとか、情けない話がたくさん伝わってくる。
市長がTVで切実な訴えをされていたが、市長の訴えに耳を貸し、ただちに物資を届けるべきである。
放射能を病的に恐れる心情は理解できるが、いわき市の全域は安全である。
ばかな風評に惑わされることなく、冷静になって欲しい。




【用語の解説】

放射能や放射線など、マスコミ報道の中でも用語の混乱が多いように思える。
TVに登場する学識者ですら、うっかりであろうが、用語の誤用が見られる。
以下に簡単に解説する。



<放射線>
広い意味では、光や電波などを含めて、全ての電磁波および粒子線のことを「放射線」という。
狭い意味では、物質を通過する時に原子や分子をイオン化させる能力がある「電離放射線」のことを「放射線」と呼んでいる。
主な放射線の種類と透過力を以下の図に示す。


<放射性物質>
放射線を出す物質のこと。 ラジウムやウランは自然界に存在する放射性物質。セシウムやヨウ素、プルトニウムなどは原発の核分裂で生成される放射性物質。


<放射能>
放射線を出す能力のことを放射能という。「放射性物質」とは、放射能を持つ(つまり、放射線を出す能力を持つ)物質のこと。

<放射線が人体に与える影響>
放射線が人体に与える影響を示す単位が、シーベルト。
1マイクロシーベルト×1000=1ミリシーベルト
1ミリシーベルト  ×1000=1シーベルト

人間は自然界から年間約2~5ミリシーベルトの放射線を受けている。
全身に一度に大量に浴びた場合、500ミリシーベルトで血中のリンパ球が減少、7000~1万ミリシーベルトで100%死亡するとされる。
胃のエックス線集団検診は1回0.6ミリシーベルト。