第10回:3月31日現在

2011.03.31



新たなニュースが出るたびに衝撃と憂鬱(ゆううつ)が広がっていくのう。
そして、政府や東電への不信感も広がっていく。
そのことが一番の危機かもしれんのう。
だが、単純に彼らを非難しても仕方なかろう。

東電は幹部も現場も疲弊しきっておるようじゃが、これも大変に心配なことなのじゃ。政府は、東電を追い詰めてはならんのじゃ。
こうなったら、政府は腹をくくり、全面的な指揮権を統括し、全責任を負うべきなのじゃ。
今回も今の事態の解説、これからの予測等について、特別講師に話してもらおう。



情報開示は大事だが、
脈絡なく出てくる情報に、
政府もマスコミも振り回されているだけのように見える。
専門知識の不足だけでなく、
総合的に情報を処理する能力、いわゆる情報リテラシー能力の不足を感じる。

唯一、専門知識を持ち、的確な分析が出来ると思われていた原子力保安院であるが、
歯切れの悪い答弁が目立つ。
「事態の推移を見守っていく」しか出来ないのであろうか。

これでは、一般の人々は混乱し、不安が募るばかりである。
微力ながら、24日から30日にかけて東電や保安院等から発表された事柄を整理し、解説してみることにした。




【なんで、高濃度汚染水の漏れに気付くのが遅れたのか?】

24日、作業員が水たまりで被ばくしたことをきっかけに、1~3号機のタービン建屋地下で、放射性物質を含んだ汚染水が相次いで発見された。
25日には4号機の地下にも水がたまっていることが判明。
27日には、建屋外の「トレンチ」と呼ぶ作業用地下ピットにも水が充満していることが分かった。

これに対し、「いまごろ分かったのか!」と、怒りとも呆れともいえない声があがっている。
それはそうなのだが・・・

発見が遅れたのは、東電に「タービン建屋は汚染されていない」との思い込みがあったからである。
たしかに通常の運転では、原子炉建屋と違い、タービン建屋には危険がほとんど無い。

唯一汚染の可能性があるのは、原子炉建屋とつながっている配管だが、下の図を見て欲しい。


原子炉建屋から来るのは「蒸気」である。
この蒸気でタービンを回して発電した後、蒸気は水に戻る(これを「復水」という)
この水が原子炉へと戻っていく。
つまり、通常は、原子炉から来るのは蒸気であり、水は原子炉に戻っていくだけなのである。
だから、「タービン建屋に危険はない」と思い込んでいたのである。

しかし、今回、冷却水ポンプが止まったことで、炉心の温度が上昇。
圧力容器内の水の蒸発により燃料棒が露出するという事態になった。
圧力容器の爆発を防ぐため、大量の水が炉心に注入され、やがて、圧力容器は水で満たされた。
当然、圧力容器に接続されている蒸気配管も水で満たされる。
すると、高さの高い原子炉から低いタービン建屋に向かって自然に水が落ちていく。
かつ、おそらく水素爆発が原因で配管のどこかに破壊が生じれば、そこから建屋内に水が漏れ、地下に溜まるのである。
これは小学生でも分かる理屈だが、「タービン建屋に危険はない」との思い込みがじゃまをする。
漏水のことを考えなくなるのである。





【この汚染水はそんなに危険なのか?】

この水がどのくらい危険なのかは、以下の表を見て欲しい。


問題は2号機である。

1号機、3号機は、この程度の汚染ならば内部での作業は可能である。
しかし、2号機の放射能濃度は高すぎる。人間が立ち入れないレベルである。
当面は、放射能が減衰する時間を稼ぐより他に方法はない。





【汚染水に大騒ぎする理由は?】

この汚染水から、ヨウ素131、コバルト56、セシウム134などが検出された。
下図を見て欲しい。
冷却水は燃料棒に直接触れるので、核反応で生成される上記の放射性物質が溶け込む可能性は高い。

しかし、冷却水は圧力容器内に密閉されている。
タービン建屋へ送られるのは、水ではなく蒸気である。
圧力容器上部には「気水分離器」という装置があり、蒸気だけを取り出す仕組みになっている。
つまり、上記のような放射性物質が蒸気に溶け込むことはない。

また、タービン建屋から戻ってくる復水はきれいな状態なので、タービン建屋に放射性物質は存在しないのである。
(通常の状態 ⇒ 下図の黒枠の説明文)

しかし、タービン建屋地下に溜まった水から、ヨウ素131やセシウム134などの放射性物質が検出された。
この理由として考えられるのは、前項の「タービン建屋」で説明したような、炉心内の冷却水の漏水である。
だが、2号機の放射能濃度の高さは、それだけでは説明がつかない。
燃料棒が高熱で溶け、上記の放射性物質が圧力容器内の水に溶け込んだ怖れが濃厚となった。

さらに、圧力容器や格納容器に損傷があり、そこから内部の水が漏れ、タービン建屋まで伝わったのではないかとの見方が出てきた。( ⇒ 下図の赤枠の説明文)


この汚染水の放射能濃度の高さが、圧力容器損傷の証拠だと騒いでいるのである。





【汚染水はどこから漏れたのか?】

汚染水の漏えいルートについて、関係者の声を集めた。

28日[原子力安全委員会]
2号機建屋内の水は溶融した燃料と接触した原子炉内の格納容器内の水が、
何らかの経路で直接流出した。

28日[東京電力]
原子炉内の圧力容器の配管などに穴が開き、外部に水が漏れた可能性がある。

28日[経済産業省原子力安全・保安院]
可能性は低いが、あらゆる可能性を念頭に置く。

30日[経済産業省原子力安全・保安院]
1~3号機の汚染水の起源について、「圧力容器内で燃料棒が損傷してできた核分裂生成物
が圧力容器の弁や管、(容器の底にある)制御棒の入り口とか弱いところから格納容器に出
て、さらに漏れ出たと推測する

30日[原子力安全委員会の代谷誠治委員]
1~3号機は圧力容器内が高温なのに圧力が上がっていない。程度の差はあれ、圧力容器に
損傷がある可能性は高い。
(本来なら、燃料棒を冷やすための注水によって大量の水蒸気が発生し、炉内の圧力は高ま
るはずなのに上がっていないことが理由?)

つまり、最も重要な圧力容器に損傷がある可能性が高い、ということである。
ここで断わっておくが、圧力容器自体が爆発するとか大きな穴が開くとか、ということではない。
圧力容器自体は、依然として強度を保っている。

しかし、圧力容器は完全に密封されているわけではない。
各種配管や制御棒を出し入れするための穴が無数に開いている。
もちろん、仕切り弁などで厳重に防護されているが、圧力容器自体より強度は落ちる。
水素爆発等で溶接個所などに亀裂が生じる可能性は高いといえる。
そこから炉内の水が外側の格納容器内に広がり、さらに弁やポンプの隙間(すきま)から漏れ出たのではないか。



 
【これって、欠陥設計ではないのか?】

原発の各種配管から核燃料が漏れる可能性は、これまで何度も指摘されてきた。
配管や溶接部分は、本体に比べれば、どうしても弱い。
原子炉に限らず、あらゆる容器類の弱点なのである。
特に、下部に貫通部分がある沸騰水型の原子炉(福島原発もこの型)は、炉心が溶ける恐れがある場合、「弱み」になる。

しかし、この弱点が、逆に安全弁的な役割を果たしているともいえる。
圧力容器内の圧力が上がり続け、爆発を起こし、圧力容器の底が一気に抜けて大量の核燃料が格納容器内の水と反応し水蒸気爆発を起こすというのが「最悪のシナリオ」であるが、貫通部分が出来てしまえば、圧力が外に逃げるからである。

今回も、圧力容器内の圧力は一時上昇したが、今は治まっている。
貫通部分が損傷し、そこから汚染水が漏れているのだが、そのことで最悪の容器爆発は防がれているといえるのである。
配管や溶接個所が本体と同等以上に強いと、かえって爆発の危険が高まる。
だから、必ずしも欠陥設計とは言えないのである。

だが、最近の原発は、もっと高度なレベルで安全性を確保している。
福島第一原発は、設計思想がそこまでのレベルになかった時代の原子炉なのである。
40年前の設計を責めるのは酷であろう。

また、さまざまな技術陣が、なんども是正を要請してきた。
しかし・・今日に至ってしまった。
技術ではなく、政治や経営レベルの欠陥設計だったのではないか。





【プルトニウムが発見された。大丈夫なの?】

原発敷地内の土壌から、半減期が長く毒性の強い放射性物質プルトニウム238が検出された。
枝野官房長官は、29日、「大変深刻な事態」と述べたが、そうは思わない。
このプルトニウムの検出の有無にかかわらず、核燃料の損傷は今や否定できない事態である。
ことさら、プルトニウムの問題だけで「深刻な事態」宣言をするのもおかしい。

もちろん、プルトニウム検出の持つ意味は重大である。
プルトニウムはかなりの高温でないと発生しないので、それだけ燃料棒の溶融が進んでいる証拠となるからだ。
そうなると、2800度前後でないと溶けない「燃料ペレット」が溶けている可能性が出てくる。
燃料ペレットは、放射性物質を閉じ込める「最後のとりで」である。それが崩壊となると重大な事態となる。


だが、土壌から見つかった量は微量である。
敷地の5か所で採取した土壌からは同位体3種類を検出したが、過去の外国の核実験の影響でなく、今回の事故が原因とみられるものは2か所だけである。

しかも、濃度は土壌1キロ当たり0.54ベクレル、0.18ベクレルで、ごく微量である。
人体には何の問題もない量である。

要するに、「初めて検出された」ことを問題にしているのである。
だが、この「始めて」が、本当に始めてなのかが、実は分からないのである。
東電は、プルトニウムの検出を長期にわたって定期的にやってきているわけではない。
今回、やってみたらごく微量の検出があったというわけである。

今後も計測を継続して検出量が増えるか否かのデータが必要で、
今は、いたずらの騒ぐ必要はないと断定する。





【各号機の危険度】

下表に、31日現在の各号機ごとの状況を示す。
ただし、報道や広報からの推定であることを断わっておく。

 

 
 
目下のところ、地下に溜まった汚染水の除去が急務である。
これにはかなりの期間がかかりそうじゃな。
東電も政府も、なかなか「いつまでに・・」と言わん。
まったく見通しが立っていない、ということじゃ。
なんとも心もとなく、いらだってくるのう。

それらの不安が、食品や避難住民に対するいわれなき誤解を助長しておるようじゃ。
だが、これについては断言できる。
ヨウ素131等の軽い放射性物質は風に乗って40~50kmも飛ぶことはある。

しかし、そうだとしても、非常に狭い領域に限定されるし、飛んでいる間に徹底的に希釈されるのじゃ。
さらに、半減期の短いものばかりじゃから、数日で放射能は消える。
食べることに何の心配も要らん。
福島県をはじめとする自治体は、自粛要請ではなく、モニタリング箇所を増やすなどの監視強化で、逆に安全性をアピールすべきなのじゃ。
まして、原発内で働いている人を含めて、有害になる人はおらん。
いわれなき誤解、差別は厳しく取り締まるべきじゃな。

特別講師には、次回、以下を述べてもらうことにしよう。

【終息はいつになるのか?】
【被ばくへの偏見】
【周辺住民は戻ってこれるのか?】
【ほんとに想定外だったのか】