第1回:改革を行う前に
2007.10.01
◆まえがき
かつて、2007年10月まで続いた平成景気の中で、景気の分析を行ったことがある。
当時の文章を以下にそのまま掲載する。
------------------------------------------------------------------------------------
以前の連載の冒頭に「この不況は奇妙な不況である」と書いた。
あれから数年が経ち、数字の上では景気は回復した。
しかし、この景気回復を本物と呼ぶには抵抗がある。
以前のコピーを以下のように書き直したい。
「この好景気は奇妙な好景気である」と。
今回の景気回復の源は、「大企業の収益を上げれば景気が上がる」という大企業優遇策にあることは明白である。
銀行を始めとする不良債権を抱える大企業への税金投入、リストラの容認、官業務の民間への開放、などの政策の果実で大企業は軒並み史上最高益の決算である。
「小泉改革の成果」と首相は胸を張るが、そのこと自体は否定できない。
ただし、大きな課題を残したままである。
「その果実が中小企業には届いていない」という点である。
収益は大企業のところで留まり、その果実の分配を受けるのは大企業の社員までなのである。勿論、完全に自立している一部の中小企業やベンチャー企業は、大企業と同様の恩恵を受ける。
それが規制緩和策の成果なのである。
一方、成果があれば必ず負の部分があるのも真理である。
この政策の負の部分は、国の借金つまり国債発行残高の増大である。
そして、成果の果実は一部の者だけが独占するが、負の負担は公平に全員が負うことになるのも宿命である。
このような状況でも、しかし、国民に危機感があるようには思えない。
まことに奇妙な国である。
「考えてもしょうがない」という諦めの心境が支配する無気力国家になってしまったのであろうか。
-----------------------------------------------------------------------------------
いかがであろうか。
上記の指摘が当っていたか否かは読む方の判断にお任せしよう。
今は、平成景気などなかったかのような大不況の渦中にある。
エコノミストからは、2009年後半から景気は回復するとの予測が出てきているが、果たしてどうなることか。企業経営者の多くは、そのまま信じることが出来ない心境にある。
予測が外れてもエコノミストには大した損害は出ないが、それを信じた企業は大変なことになる。
どうしても疑心暗鬼になってしまう。
景気対策によって一時的に公共工事が増えても、どうせ選挙までだろうと、どこか意識が醒めてしまっている。このような不信の連鎖が最も悪いとは思っていても、自社の経営は自分で守るしかない。
しかし、自社の強化しかないことは分かっても、どうやればよいのか。
あせりは募るが、答えは見えない。
苦しんでいるこのような経営者の方がたに、自社の未来を切り開くヒントになる話が出来ればと思い、この経営論を送る。
「淘汰(とうた)に勝ち残る建設業経営」はまだ有効なようである。
◆内なる経営理念
さて、先に述べた三つの計画・改革の下敷きとして経営理念が必要である。
経営理念というと立派な額に入って受付等に飾ってある姿を連想するが、あれではない。
ここで論じたいことは対外的な体裁ではない。
必要なのは経営者自身の内なる経営理念である。
他人に見せる必要のない「経営者本人が得たいこと、なりたい姿」を形にした経営理念である。
適当に個条書きでよいから紙に書いてみることをお奨めする。
自分の想いを形にするのである。
この時自分を取り繕ったり、具体性に乏しい「きれいごと」を並べてはいけない。
「社会に役立つ企業になりたい」などというお題目的な理念よりは、「地元で一番儲けたい」とか「ベンツの最高級車種に乗りたい」「毎年、海外旅行がしたい」などのほうがまだ良い。
なんでもよいからできるだけ沢山書いてみることである。
他人に見せる必要のない自分のためだけの経営理念である。
◆分類
経営理念をたくさん個条書きにしたら、これを、
①これからでもすぐに出来ること
②すぐには無理だが三年内にはしたいこと
③その先になるが必ず達成したいこと
④見果てぬ夢
に分けて分類してみよう。
楽しんで何回でも分類し直してみて、自分で「よし」という分類を作ってみることをお勧めする。
◆経営環境を分析する
ここで、経営理念を横に置いて少し真剣に考えておくことがある。
それは建設企業のこれからの経営環境である。
以下の七つの分析は平均的解答と言える。
第一、従来型の「みんな一斉好景気」の経済はもう来ない。
第二、現政府にはこれからの問題の根本的解決能力が無い。
第三、金融機関の淘汰はさらに進む。
第四、大手ゼネコンは改革を成し遂げる。
第五、談合の多くは変質していく。
第六、公共工事の発注は減り続け、
かつて、2007年10月まで続いた平成景気の中で、景気の分析を行ったことがある。
当時の文章を以下にそのまま掲載する。
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以前の連載の冒頭に「この不況は奇妙な不況である」と書いた。
あれから数年が経ち、数字の上では景気は回復した。
しかし、この景気回復を本物と呼ぶには抵抗がある。
以前のコピーを以下のように書き直したい。
「この好景気は奇妙な好景気である」と。
今回の景気回復の源は、「大企業の収益を上げれば景気が上がる」という大企業優遇策にあることは明白である。
銀行を始めとする不良債権を抱える大企業への税金投入、リストラの容認、官業務の民間への開放、などの政策の果実で大企業は軒並み史上最高益の決算である。
「小泉改革の成果」と首相は胸を張るが、そのこと自体は否定できない。
ただし、大きな課題を残したままである。
「その果実が中小企業には届いていない」という点である。
収益は大企業のところで留まり、その果実の分配を受けるのは大企業の社員までなのである。勿論、完全に自立している一部の中小企業やベンチャー企業は、大企業と同様の恩恵を受ける。
それが規制緩和策の成果なのである。
一方、成果があれば必ず負の部分があるのも真理である。
この政策の負の部分は、国の借金つまり国債発行残高の増大である。
そして、成果の果実は一部の者だけが独占するが、負の負担は公平に全員が負うことになるのも宿命である。
このような状況でも、しかし、国民に危機感があるようには思えない。
まことに奇妙な国である。
「考えてもしょうがない」という諦めの心境が支配する無気力国家になってしまったのであろうか。
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いかがであろうか。
上記の指摘が当っていたか否かは読む方の判断にお任せしよう。
今は、平成景気などなかったかのような大不況の渦中にある。
エコノミストからは、2009年後半から景気は回復するとの予測が出てきているが、果たしてどうなることか。企業経営者の多くは、そのまま信じることが出来ない心境にある。
予測が外れてもエコノミストには大した損害は出ないが、それを信じた企業は大変なことになる。
どうしても疑心暗鬼になってしまう。
景気対策によって一時的に公共工事が増えても、どうせ選挙までだろうと、どこか意識が醒めてしまっている。このような不信の連鎖が最も悪いとは思っていても、自社の経営は自分で守るしかない。
しかし、自社の強化しかないことは分かっても、どうやればよいのか。
あせりは募るが、答えは見えない。
苦しんでいるこのような経営者の方がたに、自社の未来を切り開くヒントになる話が出来ればと思い、この経営論を送る。
「淘汰(とうた)に勝ち残る建設業経営」はまだ有効なようである。
◆三つの計画・改革
三つの計画・改革を提案する。
(1)まず、収益バランスを一年で均衡させる計画が必要である。
これは、4つのリストラ計画(財務、業務、原価、労務の各リストラ)と選別受注計画とを組み合わせて実現する。
(2)次に三年を目処にした中期改革を作る。
何でもよいが数値目標が欲しい。
三つの計画・改革を提案する。
(1)まず、収益バランスを一年で均衡させる計画が必要である。
これは、4つのリストラ計画(財務、業務、原価、労務の各リストラ)と選別受注計画とを組み合わせて実現する。
(2)次に三年を目処にした中期改革を作る。
何でもよいが数値目標が欲しい。
(3)そして三番目が5~7年の長期事業計画の三本立てである。
長期計画の中では自社の一番重い経営課題の抜本的解決を行う。
例えば「有利子負債の額を売上高の20%以下にする」などの課題である。
一年目の計画を遂行する中で、2番目、3番目の計画を作ることでも良い。
長期計画の中では自社の一番重い経営課題の抜本的解決を行う。
例えば「有利子負債の額を売上高の20%以下にする」などの課題である。
一年目の計画を遂行する中で、2番目、3番目の計画を作ることでも良い。
◆内なる経営理念
さて、先に述べた三つの計画・改革の下敷きとして経営理念が必要である。
経営理念というと立派な額に入って受付等に飾ってある姿を連想するが、あれではない。
ここで論じたいことは対外的な体裁ではない。
必要なのは経営者自身の内なる経営理念である。
他人に見せる必要のない「経営者本人が得たいこと、なりたい姿」を形にした経営理念である。
適当に個条書きでよいから紙に書いてみることをお奨めする。
自分の想いを形にするのである。
この時自分を取り繕ったり、具体性に乏しい「きれいごと」を並べてはいけない。
「社会に役立つ企業になりたい」などというお題目的な理念よりは、「地元で一番儲けたい」とか「ベンツの最高級車種に乗りたい」「毎年、海外旅行がしたい」などのほうがまだ良い。
なんでもよいからできるだけ沢山書いてみることである。
他人に見せる必要のない自分のためだけの経営理念である。
◆分類
経営理念をたくさん個条書きにしたら、これを、
①これからでもすぐに出来ること
②すぐには無理だが三年内にはしたいこと
③その先になるが必ず達成したいこと
④見果てぬ夢
に分けて分類してみよう。
楽しんで何回でも分類し直してみて、自分で「よし」という分類を作ってみることをお勧めする。
◆経営環境を分析する
ここで、経営理念を横に置いて少し真剣に考えておくことがある。
それは建設企業のこれからの経営環境である。
以下の七つの分析は平均的解答と言える。
第一、従来型の「みんな一斉好景気」の経済はもう来ない。
第二、現政府にはこれからの問題の根本的解決能力が無い。
第三、金融機関の淘汰はさらに進む。
第四、大手ゼネコンは改革を成し遂げる。
第五、談合の多くは変質していく。
第六、公共工事の発注は減り続け、
さらに発注の多様化が加速する。
第七、民間の建設投資は、バブル後遺症を持たない世代と
第七、民間の建設投資は、バブル後遺症を持たない世代と
130万人の億万長者が主導する。
この後に、自社を取巻くローカルな経営環境を書き足す。
舵取りの方向が見えてくるはずである。
この後に、自社を取巻くローカルな経営環境を書き足す。
舵取りの方向が見えてくるはずである。
◆経営改革の命題
次に、分類した自分の経営理念の①および②と上記の経営環境とを対比して、経営理念実現のための具体的な改革命題を作成して欲しい。
その時、次の経営改革命題はどの企業にも共通して必要な場合が多いので、参考にして欲しい。
1. 市場に直結した情報収集網の整備
2. 財務会計から基幹型管理会計への転換
3. 生き残りの道具としての「コストダウン手法」か
「高付加価値を生み出す技術力」の早期実現
4. これらを支援するITシステムの再構築
5. 社員待遇の差別化
6. 幹部の役割変更と淘汰
7. 経営者みずからの変身
◆基幹業務改革に関わる命題
上記の基本命題に加え、自社の直面している命題、たとえば、「資金繰りの早期改善」「受注量の二割アップ」「リストラの実行」とかの緊急課題、「管理機構の再構築」「情報システムの再構築」「現場生産性の向上」とかの基幹業務改革にかかわる命題などを盛り込む。
その後、各命題毎にさらなる具体策を掘り下げ、実行可能な戦略に肉づけしていく。
具体的な例として、財務リストラの実行策を考えてみよう。
財務リストラを行う場合、貸借対照表の資産の中身を分析して欲しい。
資産が経営の役に立っているかどうかを判断するのである。
目安として総資産が年1回転以上回転しているかを計算してみる。
1回転以下であれば必ず無駄な資産がある。
無駄な資産(寝かされている土地や使用頻度の少ない重機や社用車、持ち合いの株、いくらでもある)は即刻処分すべきなのは勿論である。
そして、処分で得た資金は必ず借入金の返済に回すべきである。
しかし、処分の結果赤字になる場合も多い。
赤字を出しても一気に処分するか、数年をかけて除々に処分するか、それは幾つかのシミュレーションをした後に経営が判断すべきことである。
ここまでやることが「具体的」という意味である。
これを経営者みずから、あるいは経営者主導のもとでのプロジェクトを編成し、そこで作り上げるのである。
とにかく形として作り上げることが肝心である。
4. これらを支援するITシステムの再構築
5. 社員待遇の差別化
6. 幹部の役割変更と淘汰
7. 経営者みずからの変身
◆基幹業務改革に関わる命題
上記の基本命題に加え、自社の直面している命題、たとえば、「資金繰りの早期改善」「受注量の二割アップ」「リストラの実行」とかの緊急課題、「管理機構の再構築」「情報システムの再構築」「現場生産性の向上」とかの基幹業務改革にかかわる命題などを盛り込む。
その後、各命題毎にさらなる具体策を掘り下げ、実行可能な戦略に肉づけしていく。
具体的な例として、財務リストラの実行策を考えてみよう。
財務リストラを行う場合、貸借対照表の資産の中身を分析して欲しい。
資産が経営の役に立っているかどうかを判断するのである。
目安として総資産が年1回転以上回転しているかを計算してみる。
1回転以下であれば必ず無駄な資産がある。
無駄な資産(寝かされている土地や使用頻度の少ない重機や社用車、持ち合いの株、いくらでもある)は即刻処分すべきなのは勿論である。
そして、処分で得た資金は必ず借入金の返済に回すべきである。
しかし、処分の結果赤字になる場合も多い。
赤字を出しても一気に処分するか、数年をかけて除々に処分するか、それは幾つかのシミュレーションをした後に経営が判断すべきことである。
ここまでやることが「具体的」という意味である。
これを経営者みずから、あるいは経営者主導のもとでのプロジェクトを編成し、そこで作り上げるのである。
とにかく形として作り上げることが肝心である。