日本の未来を明るくするには(6) 【HAL通信】2014年7月29日号より

2014.11.06

アベノミクスの第三の矢「成長戦略」は、予想通り難産である。
これは当然と言える。

第一の矢「金融政策」や第二の矢「財政政策」は、政府主導で出来ることであり、思い切って大きな手を打てば、必ず効果はある。
現に、政府の力が圧倒的に強い中国は、この手でリーマン・ショックをいち早く乗り越えた。
安倍政権は、同じ手を使い(つまり、マネーの力で)、一定の成功を収めた。

政治経済学的にいえば、当り前の結果にすぎない。
なにも中国政府や安倍政権が優れていたわけではない。
評価するとすれば、断行した「勇気」である。

しかし、よく考えなければならない。
第一の矢、第二の矢は、専門用語で言えば「マネタリゼーション・シナリオ」と言い、「カネにものをいわせるやり方」である。
短期的効果があるのは当然である。
経営危機に陥った企業が、緊急融資を仰ぐことと何も変わらない。
企業は、この融資が降りれば、とりあえず「ホッ」とするではないか。

だが、問題の根は何一つ解決してはいない。
本業を建て直すまでの時間稼ぎに他ならない。
国家とて同じである。
第一の矢「金融政策」は、「将来の所得の前借り」である。
第二の矢「財政政策」は、「将来の需要の前倒し」である。
破綻懸念企業の「とりあえずの緊急策」と同じ近視眼的な政策なのである。
国家に対する金融機関である日銀が「OK」を出せば、効果があるのは当然だが、短期間でその効果は消える。

これに対し、第三の矢「成長戦略」は、政府ではなく民間主導である。
日銀と違い、民間の金融機関の腰は引けたままで、企業の投資意欲を削いでいる。
安倍政権が描く成長戦略のシナリオの成功率は、今のままでは低いと言わざるを得ない。

そのせいか、このところ、安倍首相には焦りが見えるようである。
成長戦略の停滞の打開に「海外進出」を据えたこともそうである。
このところの外遊の多さがそれを物語っている。
マスコミは「中国包囲網の形成」などと的外れな論評を垂れ流すが、首相の真の狙いは「成長戦略の停滞の打開」である。

しかし、期待を掛けたTPP交渉では、国内抵抗勢力を抑えきれず、さりとて米国の譲歩も引き出せない中で暗礁に乗り上げかねない状態である。
だから、首相自らがセールスマンとなって、海外市場の開拓にやっきなのである。
狙いは悪くないが、大きなネックは日本製品の国際価格の高さである。
大型案件ほど、この価格差が障害になっている。

この中で、安倍首相が禁じ手に手を染めるかどうかが焦点である。
つまり、アグレッシブな為替介入によって円安誘導を図るシナリオである。
これで、価格差を乗り越えるという手である。
韓国などは、日本がこの手を使っていると非難しているが、それは的外れである。
今は、アベノミクスへの期待感で、自然に円安になっているに過ぎない。
安倍政権は、まだ為替相場には手を染めてはいないし、強制介入は当面は無いと見ている。

次回は、本質的な成長戦略の話をします。