第20回:もんじゅ特集 その2

2011.06.04


【冷却材に使う液体ナトリウムは危険な物質?】

ナトリウムは、前述の写真のように常温では固体です。しかし、融点が低く300℃あまりで液体になります。
高速増殖炉は、この液体ナトリウムを冷却材として使用します。
液体ナトリウムは、空気に触れれば容易に燃え上がるし、水に触れれば爆発します。
洗面器一杯の水に、液体ナトリウムをほんの一滴たらす実験をしたことがありますが、すごい爆発を起こし、金属製の洗面器が割れました。(下図はその時のイメージです)


【液体ナトリウムは水とは違う?】

「もんじゅ」の設計時、私は、このナトリウム配管系に生ずる過(うず)の発生メカニズムとその過(うず)が配管を内側から削っていく過程を計算で導き出す仕事をしていました。



上の図はイメージですが、配管の曲がり部分には渦が生じます。
水の場合でも渦が生じますが、水より比重の重い液体ナトリウムの場合、渦の大きさ、配管の摩耗速度は想像以上でした。
過の発生を抑えるには、ナトリウムの流れる速度を落とす必要がありますが、そうすると熱を運ぶ能力が落ち、発電効率が悪化してしまいます。(右の図)
逆に、流速を上げると、直管の溶接部などにも渦が生じ、管壁を削っていきます。



さらに、配管には様々な温度計や流量計などが取り付けられ、そのセンサー部分の突起が配管内部に張り出します。(右の図)
この突起がナトリウムの流れを乱します。
そこに生ずる過流によって、センサーは繰り返し応力を受けます。
水よりずっと粘性の高いナトリウムの渦の力は大きく、センサーを壊し、配管を傷つける恐れを無視できません。



[第20回:もんじゅ特集 その2]
また、水とナトリウムが板一枚で接する蒸気発生器は、出来る限りこの隔板の厚さを薄くし、かつ、ナトリウムの流れを複雑に曲げるほうが、熱伝達の効率が上がります(右の図)。
しかし、隔板が薄いと、上記の過流によって穴があく危険が増えます。
これが最大の問題です。

「液体ナトリウム」は燃えやすく、水に触れると爆発するという危険な物質です。
その危険の緩和のため、「一次冷却系⇒二次冷却系」と、ナトリウムの配管系を二重にしています。
(【発電のための仕組み】の図をもう一度ご覧ください)

それでも、蒸気発生器のところでは、水と液体ナトリウムが板一枚で接触しています。
小さな穴(ピンホール)があいただけで、爆発する危険があります。
このように液体ナトリウムは、危険度が高く扱いが難しい物質なのです。



【核暴走が起こりやすい】

高速増殖炉には、もう一つ危険があります。「原子炉の暴走」が起り易いという点です。
高速増殖炉は、中性子の速度が速く、核の連鎖反応が速いため、制御棒による制御が難しいのです。
その分、軽水炉より暴走し易いと言えます。
また、プルトニウムを混ぜることで燃料の融点が下がります。
つまり、ウラン燃料より溶けやすいのです。
これに反して、熱伝導度等は通常のウラン燃料よりも低いので、燃料の温度が高くなります。
つまり、燃料溶融(メルトダウン)が起き易いといえるのです。




【結論は?】

当時の設計チームが何度も計算し直し、検討を繰り返した末に出した結論は、
「現在の技術では、この種の原子炉の建設は時期尚早」でした。
しかし、既に国家予算がついた計画が止まることはありませんでした。
そして、その後、私が設計に携わることはありませんでした。
ですから、その後のことは報道以上のことは分かりません。





【世界の現状は?】

高速増殖炉の研究はフランスが最も進んでいました。フランスは、フェニックス、スーパーフェニックスと相次いで高速増殖炉を建設し、実用段階にまで持ってきました。
しかし、事故が相次ぎ、ついに運転断念に追い込まれました。
このフランスを始めとして、米国など海外の高速増殖炉はほとんど撤退を決定し、現在、推進しているのは日本だけです。




【日本の現状は?】

諸外国の撤退をよそに、日本は高速増殖炉の建設にまい進し、「もんじゅ」は1991年から性能試験を開始しました。
しかし、1995年にナトリウム漏洩による火災事故を起こし、運転を休止しました(我々の懸念が的中したわけです)。
その後、運転再開のための工事を行い、2010年5月6日、本格運転は2年後とした10年計画で運転を再開しました。




【再び事故発生】

しかし、再開後わずか3ヶ月余の8月26日、原子炉容器内に筒型の炉内中継装置が落下し、実験は頓挫しました。
装置は長さ12m、重さ3.3トンで、燃料交換後の撤去作業中に約2メートル落下しました。
その上、この装置の引き抜きが出来なくなり、これまで20回以上も試しましたが、
2011年6月現在も、引き抜けない状態が続いています。


2010年11月16日、ファイバースコープ及びCCDカメラで確認したところ、縦につながっている2本の筒の接続部が変形していることが分かりました。(右の図)
この変形部がどこかに引っ掛かって引き抜けないという状態と思われます。
もんじゅの所有者である「日本原子力研究開発機構」は、
原子炉内の「損傷の可能性は低い」と説明していますが、
原子炉内には不透明な「液体ナトリウム」が循環していて、内部は目視できません。
装置側の傷の有無を調べ、炉内に損傷がないかを判断するしかないのです。



もんじゅ原子炉上部で装置の引き抜き作業をする作業員(機構の広報資料より引用)




【復旧作業はどうなっているのか?】

2011年1月28日、機構は、落下した装置を引き抜くための復旧作業を東芝と契約しました。
約9億4千万円と聞いています。
引っ掛かって動かない燃料交換装置を取り外すために、新たに機器を製作し、6月中旬をめどに装置を取り出す予定です。
しかし、落下の衝撃で原子炉内が損傷した可能性も完全には否定できません。
機構は、復旧後に試験運転の再開を計画していますが、福島第一原発の事故の影響で再開は難しい情勢です。




【多額な維持費用がかかっている?】

もんじゅは、中途半端な形で運転が停止されているため、冷温停止が出来ない状態です。
今の状態を維持する必要があり、これに多額の費用がかかります。
1日5500万円の経費がかかるということですから、昨年8月26日から数えて、5月末で278日。
つまり、1Wの電気を作ることもなく、5,500万円×278日=152億9,000万円の税金が空しく消えたわけです。
復旧作業に失敗した場合、50年間は、このままの形で維持しなければならないとも言われています。
その維持費総額、200億円/年×50年=1兆円。ため息しか出ません。

【責任者が自殺した?】

2011年2月21日、「装置を現場で担当する燃料環境課長が敦賀市の山中で自殺」と報道されました。
装置の落下を苦にして、と言われています。
1995年にナトリウム火災で運転休止に追い込まれたときも、当時の動燃総務部次長が自殺をしています。
あの時は、公開された事故のビデオが編集されていることが発覚したことが引き金と言われました。
この次長の死をきっかけに、報道での扱いは急激に小さくなりました。




【どこから狂ってしまったのか?】

前述の【結論は?】のところで書いたように、設計段階での技術者たちの「時期尚早」の意見は取り上げられることはありませんでした。
下っ端の技術者たちの意見など吹き飛ばす、大きな力があったということです。
それは当然です。
「ふげん」「常陽」「もんじゅ」の建設費だけで推定2兆6000億円、その後の運転維持費を加えれば、3兆5000億円の予算が付いたプロジェクトです。
それによって恩恵を受ける人たちや企業がどれほどの数になるかを考えてください。
「若造の技術者たちの戯言(ざれごと)で中止など、するわけはなかろう」となるのです。
今回の福島原発の事故も全く同じ構図で起きています。
つまり、国家予算が付くところから狂っているのです。
悪いのは原子力ではありません。技術でもありません。
今の日本の政治・行政の仕組みでは、同じことを何度でも起こします。
この仕組み全体を変えるしかないと思います。
原子力行政の大半は、前政権(つまり、自民党政権)が担ってきました。
民主党政権に替わったことで変化を期待しましたが、全くの期待外れでした。
結局、巨大な利権のうずは、出来てしまったら、だれにも止められないのです。
次回は、1995年の事故の模様を再現したいと思います。
福島第一原発の初動の様子が分かってくると、もんじゅの事故の時と驚くほど似ていることにびっくりします。
結局、この事故から何も学ばず、福島まで時間を空費したのです。



う~ん、なんとも考えさせられてしまうのう。
特別講師には、原子力辞典のような詳細な解説をしてもろうた。
塾生も長文の講義に疲れたことじゃろうが、
ここは大切じゃ。
やはり、政治は国民が地道に作っていくしかないようじゃな。
心したいと思う。
次回も期待するとしよう。