第16回:質問特集 その2

2011.05.04



マスコミの扱いは減ってきておるが、ネットでの論戦は白熱しておるようじゃな。
放射線害毒論と放射線有益論のことじゃ。
それぞれ学者先生が登場し、自説を展開する。
どちらが真偽か、素人には判断がつかん。
いきおい、自分の感情に近いほうに肩入れする。
それに煽られてか、学者先生の言動はエスカレートする。
感情では、お互い、相容れぬものじゃ。
冷静さを欠いた言い争いは議論にもならんな。
というわけで、今回は、質問のお答えの続編をお送りする。
それでは、特別講師に解説をお願いする。



最初に、最近のトピックスを解説する。

【水中カメラが4号機プールを撮影…破損みられず】

東京電力は4月29日、4号機の原子炉建屋内にある使用済み核燃料貯蔵プールの映像を公開した。
映像は28日に水中カメラで撮影したもので、東電では、プール内部が破損している様子はみられないといっている。



映像を見ると、格子状の金属製収納容器の中に、燃料棒を束ねる燃料集合体が縦に納められている。
その上にコンクリートの破片が落ちているようだが、燃料集合体の破損の有無は、これでは分からない。「無事らしい」としか言いようがない。
右の通常状態の写真と比べて、チェレンコフ光の青色がだいぶ薄くなっているので、放射能レベルはかなり下がってきていることは分かる。

問題のプール自体の破損の有無は不明だが、水位は保たれているようだ。
プールに破損があり、水が漏れているとしても、そう大きくはないであろうと思われる。
それでは、質問への回答を続ける。




【質問7】
シーベルトとベクレルの解説をお願いします。

【回答7】
一言で言ってしまえば、以下のようになります。

ベクレル(Bq) :放射性物質が放射線を出す能力(放射能)を表す単位。
太陽の紫外線の強さのようなもの。

シーベルト(Sv):放射線による人体への影響度合いを表す単位
紫外線による日焼けの程度のようなもの。

もう少し親切に説明すると。

放射性物質にはいろいろな種類があります(ウラン、ヨウ素、セシウムなど)。
また、放射性物質によって、放出される放射線の種類やエネルギーの大きさが異なります。
「アルファ線」や「ベータ線」などのことです。
(前回、第7回の質問1への回答を参照ください)



これらの放射線が人体に与える影響は、放射性物質の放射能量(ベクレル)の大小に比例するわけではありません。
放射線の種類やエネルギーの大きさ、放射線を受ける人間の身体の部位なども考慮した数値が必要になり、「シーベルト」という換算値が考案されたのです。

1ベクレルとは、1秒間に1個の核分裂が起きて放射線が出る量を意味します。
これに対し、その放射線を「受ける」量にはグレイという単位が使われています。
しかし、人体に対しては、放射線の種類によって与える影響が違うので、この影響を数値化したものとして、シーベルトという単位を使っています。


例えば、原発事故などで多く発生するベータ線やガンマ線では「1グレイ=1シーベルト」ですが、
アルファ線では「1グレイ=20シーベルト」になります。
アルファ線は飛ぶ粒子の質量が大きいので、1つの放射線が人体に与えるダメージが大きい のです。




【質問8】
シーベルトという単位がさかんにニュースに出てきます。
作業員の方が汚染水で100ミリシーベルトを浴びたとか、累積値が20ミリシーベルトを超えた地域の人が避難させられるとか使われていますが、その値が1時間だったり累積だったりと、時間の単位がよく分かりません。教えていただけますでしょうか。

【回答8】
シーベルトは、人体への影響を表わす単位なので、基本的に線量の累積値(積み重なっていく加算量)が問題になります。
この積算(累積)期間は、原子力作業者および成人の一般人で50年、子どもでは摂取した年齢から70歳までとなっています。つまり、ほぼ一生ですね。
放射線は低レベルといえども細胞に損傷を与えます。
そして、浴びた放射線量は一生つきまとうという考え方です。


しかし、時間が経てば普通の傷が治るように、放射線による傷も治ります。
それでも、普通の傷でも傷が深ければ治りきらずに傷あととなって残りますし、場合によっては身体機能が不自由になってしまいます。
これと同じように、放射線の傷も一度に浴びた量によっては重大な後遺症を招きますし、死に至ることもあるわけです。
たとえば「6,000ミリシーベルト(6シーベルト)/1時間」の全身被曝は、
致死量と言われています。これ以下なら後遺症が残る可能性はありますが、
生存可能性は高まるようです。
しかし、人体の耐性(耐える力)や修復能力(治す力)は個人差が大きく、
一概に「この量、この期間なら」とは言えないようです。

このように、一般的な基準値を制定することは難しいことです。
「一生」という期間は長すぎるし、細胞の修復能力のことも考慮すべきとなり、
今は、安全を見て、1年間あるいは5年間の累積期間を見ているわけです。
しかし、科学的根拠は乏しいのが実情です(だから危険ということではないので、それほどナーバスになる必要はないでしょう)。




【質問9】
いろいろな数値が報道されますが、ほとんどが外部被曝の場合だと思います。
内部被曝の場合は、別なのでは?

【回答9】
内部被曝は、ごく近距離から内臓などの器官が24時間被曝するわけですから、影響は大きいです。
また、被服などで遮蔽(しゃへい)することも出来ませんから、出来れば避けたいことです。
ですが、内部被曝で摂取した放射性物質は時間とともに減少します。
その早さは放射性物質の種類により異なります(半減期に比例)。
また、生体の新陳代謝により死滅した細胞は体外に排出されますので、減少速度はその分速くなります。
現在程度の放射線レベルであれば、呼吸や食物で摂取したとしても、いたずらに恐怖に陥る必要はありません。
ただし、原発内で作業されている方は、厳重に被曝線量を監視し、内部被曝を防ぐ装備や作業手順を慎重に考え、実施すべきです。


【質問10】
最近、YouTubeなどで話題の稲博士が、「1000ミリシーベルト浴びても大丈夫だ」と力説していました。博士は「放射線は体に良い」とも言っています。本当なのでしょうか?

【回答10】
稲博士のYouTubeは私も見ました。
論文も拝見しましたが、正直よく分かりませんので、論文の内容については論評出来ません。
まず、「放射線は体に良い」については、ある意味当っています。
実際に病気の治療にも使われていますし、生物の成長促進効果も確認されています。

私は、植物工場や動物の実験施設、細菌研究所などの設計に携わっていた時期があります。
これらの施設設計に必要な技術と、放射線施設に必要な技術は共通項が多いため、原子力関係の仕事の後、これらの施設の設計に携わっていたわけです。
その時の研究成果から、低レベル放射線が動植物に及ぼす影響も掴んでいました。
だから、稲博士の主張はある程度信ぴょう性があると思っています。
しかし、「1000ミリシーベルト浴びても大丈夫だ」は誤解を招く言い方だと思います。
「1000ミリシーベルト浴びても、多くの人は回復する」なら分かるのですが・・

私の体験から言えることをお話しします。
私は3ヶ月間で、推定値ですが3000ミリシーベルト浴びました。
その結果、自覚症状はありませんでしたが、血液検査で異常が出ました。
幸い、半年ぐらいで数値は元に戻りました。

このことから、このレベルの被曝により細胞は損傷するが、時間とともに修復されると言えます。
(強くなるかどうかは不明ですが・・)
1日で最大500ミリシーベルトを浴びた(線量計を外して入ったので、これも推定値です)こともありますが、その夜、食べたものを吐きました。

しかしながら、この嘔吐(おうと)は、被曝が原因か否かは分かりません。
当時は、相当な過労とストレス下にありましたから、この影響も考えられます。
また、放射線を浴びたことに対する心理的不安も大きかったと言えます。
つまり、原因の特定は不可能ということです。
その後、数日は具合が悪かったですが、1週間ぐらいで治りました。
このような私の経験から、福島第一原発での今の緊急許容値250ミリシーベルトは、健康障害が出ないギリギリの上限値ではないかと思います。
その意味では政府の対応は間違っていませんが、広報が下手で、見ていられませんね。




【質問11】
放射性ヨウ素を摂取すると甲状腺に張り付きガンになると聞きました。
小さな子供がいますので、心配でたまりません。
牛乳や野菜などに含まれていると言われますが、食べさせないわけにはいきません。
なにかアドバイスをお願いします。



【回答11】
アドバイスというより事実だけを説明します。以下を読んで、ご自分でご判断ください。
放射性ヨウ素が付着した食べ物を摂取すれば、放射性ヨウ素は確実に体内に取り込まれます。
ただ、摂取したヨウ素のうち、甲状腺に集まる割合は2割程度と言われています。

では、どの程度の摂取量で健康に害が出るのでしょうか。

確かに、子供は成長中であるために甲状腺の働きが活発で、そのために甲状腺にヨウ素を取り込みやすいと言われています。
放射性ヨウ素は甲状腺癌の原因になる可能性があり、甲状腺に異常が生ずると発達障害を引き起こします。
それは事実ですが、摂取量が少なければなんの障害も出ません。

それで、医療現場での治療の例をお話しします。
放射性ヨードは、甲状腺の「治療薬」として使用されています。
この時使われる「ヨード131」は、原発から出る放射性ヨウ素131と同じものです。
医者の知り合いに聞くと、この時の使用量は概ね4~5mCiと言います。
mCi(マイクロキューリー)をベクレルに換算すると、5mCiは1.85×(10の8乗)ベクレル=1.85億ベクレルとなります。
この量は4.07Sv(4070ミリシーベルト)の被曝量に相当しますので、すごい量です。
この量の投与で甲状腺の細胞の8~9割は死滅すると言われますが、残った細胞が新たな健康な細胞を生みだすので、健康を取り戻すということです。

こんなところから、「放射線は体に良い」という説も出るのだと思いますが、これは、あくまでも治療の例です。
厳密に計算し、短期間、局所的に使用するのであれば、これほどの被曝量でも細胞は回復します。
ですが、健康体に投与するのは止めたほうがよいのは言うまでもありません。
この治療の場合、通常、投与後2週間で退院ということです。
ヨウ素131の半減期は8.04日ですから、14日も経てば影響はなくなると考えて良いでしょう。

(注意)
以前、以下のような記事を掲載しました。

『自身の被曝体験から、私は年間で3000ミリシーベルト、時間当たりの最大で500ミリシーベルト以下なら大丈夫と思っている』
この量は、一切の異常が出ないという量ではなく、「異常が出ても回復するので心配は要らない」という意味です。
言葉足らずであったことをお詫びするとともに上記の如く補足します。


この臨床例から見ると、現在、報告されているレベルの野菜類等の汚染量の範囲であれば、放射性ヨウ素は問題にはならないと思います。勿論、子供に対してでもです。

それでも、「同じ食物を365日大量に食べ続けても大丈夫か」と言われる方もいらっしゃいますが、
現実味のない質問ですので、お答えはしないことにしています。




【質問12】
ヨウ素だけでなく、セシウムなどの放射性物質も出ていると報道されています。
セシウムはヨウ素より危険なのでしょうか?

【回答12】
セシウム137の半減期は30.1年です。
つまり、その間は放射線を出し続けるのですから、半減期8.04日のヨウ素131よりも危険性が高いといえます。
内部被曝をすると、その放射性物質が体内にある期間、被曝量が日々加算されることになります。

ただ、セシウム137は水溶性に富んでいて排泄が早いので、実際の影響量は計算値よりは低くなります。
政府は記者会見で、「たとえ1年間毎日摂取したとしても、トータル量はCT検査1回分に満たない」
という表現をよく使いますが、少し単純計算過ぎます。
実際にはケースバイケースで断定的なことは言えません。
減衰の早いものは、蓄積計算値より実際の被曝量は少ないでしょう。
逆に半減期が長く、蓄積し易いものは、そう単純な計算にはなりません。

また、CT検査のことがよく持ち出されますが、実際にCT検査を受けられている方は不安に思われるでしょう。
止めるべきだと思います。



【質問13】
TVなどで、政府の方が、さかんに「ただちに健康を害するような量ではない」と言っていますが、かえって心配になります。
どうして、あのような言い方をするのでしょうか?


【回答13】
そうですね。最近は控えめになったようですが、一時、枝野官房長官なども連発していましたね。
そこで、あの言葉の解説(と言っても、私の解釈ですが)をしておきます。

「ただちに」と言うのは、「急性の放射線障害を引き起こすような被曝量ではない」と言う意味で使っているようです。
では、「急性以外にどのような障害が想定されるのか」と言えば、将来(10年、20年後)の癌の確率的な増加です。
「放射線は微量であっても浴びるべきではない」と主張される方々の論拠もここにあります。

現在は、これに対する臨床例も統計的なデータもないため、なんとも言えません。
「だから危険なのだ」と解釈されるか、「だから危険ではない」と解釈されるかは個人の考え方です。
科学的なデータがないため、どちらが正しいかを論じることは意味がありません。
「各自で判断してください」としか言いようがありません。
私は、危険を感じていませんので「危険はない」と言い切っていますが、他人に押し付けるつもりはありません。
また、私に対する押し付けは迷惑と思っています。

余談ですが、私は被曝者として追跡調査の対象になっているようです。
時折アンケートに答えていますが、アンケート結果をもらったことは一度もありません。
「健康被害は?」の問いには、いつも「ない」と答えています。
きっと、多くの回答は私と同様と思っています。
ですから、結果を公表すればよいのですが、なぜか、一切しません。
このような当局の姿勢が、あらぬ疑念を引き起こすものと思われます。
もう少し親切・丁寧な行政であって欲しいと願います。
ご質問の本題から外れてしまいました。申し訳ありません。

このように、低い線量であっても影響のある「可能性」はあり、明確に「ない」と言い切れないので、政府は、このような予防線を張った「ただちに・・」という言い方をしているのです。



【質問14】
先日、ある教授が、福島原発が現在、爆発する可能性は、他の原発が地震によって危険な状態になる可能性より低い、というようなことをおっしゃっておられたのですが、そのことで、日本国内の他の原発が、急に心配になってきました。
心配してもきりのないことなのですが、たとえば、今、問題とされている福井県の高速増殖炉「もんじゅ」の危険性はどれくらいのものなのでしょう。
もんじゅは、表に放射能が漏れてないだけで、実際は、近い将来、福島よりも大変なことになる可能性が高い、と聞きました。
関係者が自殺されたとか・・・・。
もんじゅについて、いろいろ語っておられる方はおられますが、信頼しておりますこのサイトでご説明いただけたら、と思ってメールしました。
お忙しいと思いますし、今は、福島のことで手一杯でおられると思いますが、
何かの機会に、これについても触れていただけると、ありがたいです。

【回答14】
他のご質問は、主旨が崩れない範囲で縮小したりしていますが、このご質問は全文を掲載させていただきました。
とても難しい問題をはらんでいるからです。
まず、「先日、ある教授が・・」のくだりですが、この教授は、「福島原発は、そんなに心配することではない・・」と言おうとしたのでしょうが、ご質問者は、そのことでかえって「他の原発も危ないのでは・・」と思われたわけです。

私は「なるほど!」と思いました。現実の原発事故の報道を見れば「安心しろ」と言われても、一般の方は安心できないでしょうね。
私でさえも、現実は一進一退で、ちょっとの油断も禁物という状況と見ています。
根拠の乏しい安全論は、かえって有害なのですね。そのことを教えていただいて感謝しています。
さて、ご質問の主旨、高速増殖炉の「もんじゅ」ですが、かなりの説明が必要です。
回を改めまして、解説したいと考えております。

次回は、今までいただいた質問の続きを行う予定ですので、その次あたりに「もんじゅ特集」を組みます。
それまで、少しお待ちください。




今回もかなりの解説になったもんじゃ。
特別講師も疲れておるようじゃが、使命感で頑張っておるようじゃ。
読者は、何とかその意図を組んでほしいものじゃわい。
特別講師が予告したように、次回も残りの質問への回答をお送りする。
その次には、「もんじゅの特集」を企画する。
福島原発以上に深刻な実態とは聞いておる。
少々まってくだされ。