第18回:メルトダウン

2011.05.22


第10回は、高速増殖炉「もんじゅ」の特集の予定でおったが、

「メルトダウン」に関して、新たな情報が出てきおった。

重要なことなので、特別講師に解説をお願いすることにしたのじゃ。




「もんじゅ」特集は、次回(第11回)とするので、容赦願いたい。
3月16日掲載の「緊急臨時回(2)」の【燃料棒の溶融】の項で、
私は「圧力容器に損傷はないから、メルトダウンは起きていないと思われる」と述べた。

東電の発表内容から、そう判断したが、2ヶ月も経った5月20日、『3月12日には炉心溶融が起きていた』と東電が発表した。
結果として、私の判断が甘かったことになるので、その意味ではお詫びしたい。

だが、3月16日の時点では、「圧力容器は無事で、容器内に水を注入している」と発表されていた。
その発表内容から、燃料棒は損傷しているが、全体溶融はしていないだろうと判断していた。


ところが実際は、12日午前6時には全体溶融を起こしていたことが分かった。

(質問28の回答をご覧ください)

この重要な情報を隠していたという事実は重い。
東電の信用はゼロに等しくなったと言わざるを得ない。

報道によると、

「東電は、『メルトダウンが、炉心の形状を維持せず、圧力容器の下に崩れ落ちているというのであれば、それで結構』と、初めてメルトダウンであることを認めた」とある。

記者会見の場にいたわけではないので断定は出来ないが、
このとおりの発言であったなら、「ふてくされ会見」と言ってもよいであろう。
当時も今も、東電の体質は救い難い状況にあり、とても原子力発電を任せられる会社ではなかったとなる。

メルトダウンに関する質問をいただいていたので、以下、それを基に解説する。
なお、説明の都合上、質問内容を分割させていただき、順不同で掲載している。
ご質問者のご了解を得ておりませんが、事後承諾ということでご承諾をお願いします。




【質問24】
そもそも「メルトダウン」という言葉自体がよく分かりません。
東電や政府の発表では、「炉心溶融」という言葉も出てきます。同じ意味なのでしょうか。

【回答24】
公式に認められた「メルトダウンの定義」というものはありません。
私も3月16日の回では、以下のような使い方をしていました。



【炉心溶融(メルトダウン)ではないのか?】
燃料棒の溶融が続き、燃料ペレットがむき出しになり、やがて原子炉圧力容器の底に落ちる。
さらに燃料ペレットそのものが溶け出し、その状態が長く続き、やがて圧力容器の底が抜ける。
ここまで来ることを「炉心溶融(メルトダウン)」という。
今回は、圧力容器に損傷はないから、メルトダウンは起きていないと思われる。

私は、このように、圧力容器の底が溶けて『抜け落ちる』状態を、メルトダウンと呼んできました。
上記の説明では「炉心溶融=メルトダウン」としていますが、これは修正したいと思います。
それで、以下に用語の意味を整理しました。

(あくまでも、私流の整理ですが)





⑦の「炉心溶融」をメルトダウンと呼ぶ向きもあるが、それは「燃料の全溶融」と呼ぶべきであり、
メルトダウンは、⑧の状態を指すほうが適当かと思います。

5月21日付けの新聞各紙は、以下のように図解しています。


産経新聞(5月21日)
この状態がメルトダウンだと報道されています。
先の「燃料損傷の表」だと⑧に相当します。
完全に底が抜ける状態にはなっていない(つまり、圧力容器本体は破壊されていない)が、容器底部にある貫通口の溶接個所などが溶け落ち、溶けた燃料が格納容器に漏れている状態です。




【質問25】
英字新聞を読むと、福島第一原発は「メルトダウン」というように書かれています。
また、「チャイナシンドローム」という言い方をしている海外メディアもあります。
海外の目は日本以上に厳しいようですが、過剰報道なのでしょうか?



【回答25】
炉心溶融のことを、米国の新聞では“meltdown”とか“China syndrome(accident)”と書いています。
ご存知の方も多いでしょうが、「メルトダウン」という用語を有名にしたのは、米映画「チャイナ・シンドローム」(1979年公開)です。
映画の中で、米国の原発がメルトダウンを起こせば「高熱の核燃料が地球の裏側の中国まで突き抜ける」という冗談が語られており、そのイメージが一般に定着してきたのです。
この映画が公開されたのは1979年3月16日ですが、それから12日後の3月28日に、スリーマイル島で本当の原子力発電所事故が起きたことで、映画は大ヒットしました。
映画のタイトルでもある「チャイナ・シンドローム」という言葉も、この時以来定着しました。
「映画=実際」ではないですから、過剰報道と言えば過剰ですね。

大阪大学大学院の山口彰教授(原子炉工学)は、
「映画のように、溶融した燃料が圧力容器を突き破って外部へ漏れ出す状態を想起する人もいるだろう。定義が曖昧で、誤解を招く可能性もあるため専門家はあまり使わない」と言っておられます。
私も気を付けて使うようにしたいと思います。




【質問26】
メルトダウンの実態はどうなっているのでしょうか。
この先、原子炉爆発というような可能性もあるのでしょうか。

【回答26】
1号機の燃料は「100%溶けた」と報道されていますが、実際は「よく分からない」のです。
炉心の中を目で見ることが出来ない以上、憶測で言うしかありません。
「こうなったら、100%溶けたと言っておいたほうが良い。それ以上はないのだから」
これが東電や保安院の本音でしょう。

米スリーマイル島原発事故(1979年)の場合、燃料の溶融は約45%でしたが、炉内の状況が確認されたのは事故から約10年経った後でした。
前出の山口教授は、「圧力容器の下部に水があり、温度も安定している。溶融燃料が連鎖的に核反応を起こす臨界状態になる可能性は低く、底が抜けて大量の燃料が漏れ出すとは考えにくい」と言っておられます。私も同意見です。




【質問27】
2号機、3号機もメルトダウンを起こしているのではありませんか。

【回答27】
可能性は高いと思いますが、正直、判断できる情報が乏しいです。
1号機は、3月12日午前6時頃には全燃料が溶融(メルトダウン?)したものと思われます。
つまり、震災後5時間で燃料が露出、15時間で完全溶融となりました。
次の質問でお答えしますが、1号機は緊急炉心冷却装置(ECCS)が稼働したものの短時間で停止してしまいました。

それに対し、2、3号機では蒸気タービン駆動の隔離時注水装置が2号機は約3日、3号機は約1.5日の間、炉心に水を注入し続けていました。(2、3号機は、全電源喪失を考慮して隔離時注水装置と高圧注水系と、2系統の蒸気タービン駆動注水装置がありました。後者は動きませんでしたが、前者は動いていました)。

しかし、そこまででした。やがて注水装置は全て停止し、水素爆発に至ったわけです。
この間の時間稼ぎがメルトダウンを防いだかどうか、それは分かりません。



【質問28】
3月12日の大事な場面で、1号機への海水注入を止めさせたのが誰かで大騒ぎになっています。
真相はどうなっているのでしょうか。推理でよいですから聞かせてもらえませんか。

【回答28】
この質問は知人から電話で受けたのですが、公開で回答した方が良いと思い、本人の了解を得て掲載しました。
まず、時系列で事態を追ってみます。


<3月11日>
14時46分
宮城県北部で震度7の地震発生。
稼働中の1 - 3号機は、地震の揺れを検知して自動停止。
発電所に電力を供給していた送電線の鉄塔1基が倒壊。所内の受電設備も損傷。
「全電源喪失」となる。

14時50分
非常用ディーゼル発電機が起動。

14時52分
1号機の緊急炉心冷却装置(ECCS)が起動。
その後、1号機の圧力容器内の圧力が急激に低下。
圧力低下の緩和のため、作業員がECCSの回路のON/OFFを繰り返す。

15時27分
津波の第一波来襲。
その後、燃料タンクが流出。地下に設置されていた非常用ディーゼル発電機が海水につかって停止。
非常用復水器(ECCSの一部)を非常用電池で駆動。

15時50分
非常用電池が水没。
ECCSの回路が遮断状態のまま、非常用復水器が使用不能に。

17時ごろ
東電の電源車を出動させる。しかし、渋滞で到着せず。

18時20分
東北電力に電源車の出動を要請。しかし、到着は23時に。
津波の被害と電圧不一致などで、12日15時まで接続できず。

19時03分
首相は、原子力災害対策特措法に基づき、原子力緊急事態を宣言。

19時30分
1号機の燃料が、冷却水の蒸発による水位低下で全露出。燃料溶融が始まる。
発電所内の直流小電源の融通で「非常用復水器(ECCSの一部)」を稼働。

20時01分
枝野官房長官は、原子力緊急事態宣言について、対象区域内の居住者らは現時点で特別な行動を起こす必要はないと発表。

21時23分
枝野官房長官は、福島第1原発から半径3キロ以内の住民に避難を指示。
陸自化学防護隊が出動。


<3月12日>
1時48分
稼働していた「非常用復水器」が機能停止(畜電池が切れた)。

時間不明
1号機の原子炉の圧力が設計値の1.5倍に上昇。

3時22分
海江田万里経済産業相は、1号機の格納容器内の圧力を下げるために弁を開くと発表。

6時ごろ
1号機の全燃料が溶融。炉心溶融となった。

ここまでの情報から、震災後約5時間で燃料が露出し、15時間で「全燃料溶融」したことになる。

6時19分
首相が、福島第1原発などを視察するためヘリコプターで官邸を出発。

6時25分
原子力安全・保安院は、福島第1原発の正門近くの放射線監視装置で通常の8倍以上の放射線量検出と発表。

6時38分
原子力安全・保安院は、福島原発1号機の中央制御室で検出された放射線量は通常時の約千倍と発表。

7時11分
首相が福島第1原発に到着。

7時40分
福島第1原発正門付近の放射線量が通常時の約73倍を計測。

7時50分
東電は、福島第1、第2原発に発電機車を派遣。計51台が現地に到着。

8時34分
官邸で緊急災害対策本部会議を開催。

9時00分
東電は1号機の原子炉格納容器の減圧作業を開始。
格納容器内の蒸気放出に成功。放射性物質が周辺に拡散。

9時00分
原子力安全・保安院は、1号機で「炉心溶融」が起きた可能性が高いことを発表。

9時11分
原子力安全・保安院が東京電力に対し、1、2号機の格納容器内の蒸気を外部に放出するよう命令。

時間不明
首相は、東京に戻った後、「原子炉は大丈夫だ」と報道陣に語った。

10時12分
枝野幸男官房長官は、原発の蒸気放出について「管理された状況での放出は万全を期すため。落ち着いて退避してほしい」と談話。

11時00分
視察を終えた首相は、官邸で記者団に「あらためて津波の被害が大きいと実感した」と語る。

11時56分
首相は緊急災害対策本部会議で福島第1原発に関し、「微量の放射能が出ている。国民の健康を守る態勢を取りたい」と発言。

12時13分
福島第1原発の正門付近の放射線量が、午前9時10分現在で通常時の70倍以上に達したと東京電力が発表。

12時26分
1号機で、炉心の水位低下による燃料の露出が午前11時20分現在で最大90センチに達したと原子力安全・保安院が発表。

15時05分
外部の電源車と1号機がケーブルで接続され、電源が開通。

15時12分
原子力安全・保安院は、福島第1原発の避難指示区域について「半径10キロ以内に変更なし」と発表。

15時29分
東電は、原発敷地境界で1時間当たり1015マイクロシーベルトの放射線を確認。

15時36分
1号機建屋で爆発があり、原子炉建屋が骨組みを残して吹き飛ぶ(水素爆発発生)。
格納容器内の水蒸気を逃がす作業をしていた4人が負傷。

同時刻
30分前に開通した電源ケーブルが、水素爆発で吹き飛ばされた。

16時06分
原子力安全・保安院が、1号機の圧力容器内に東電が消防ポンプで海水を直接注入・冷却することを発表。

17時50分
枝野幸男官房長官が、「何らかの爆発的事象があった。放射性物質の数値は想定の範囲内」と発表。

19時04分
官邸の指示で第一原発の避難指示の範囲を半径20キロ以内に拡大したと福島県が発表。

19時ごろ
それまで1号機に注入してきた「真水」がなくなった。
東電は、「海水で炉心冷却」を選択。

<ここから先は、以下のような報道がなされましたが、官邸は真っ向からそれを否定しています>

時間不明:東電→官邸に、海水注入を報告。

時間不明:首相→斑目委員長(原子力安全委員会)に、海水注入の是非を問う。

時間不明:斑目委員長→首相に、「海水注入は、再臨界の危険性がある」との意見を具申。

時間不明:官邸→東電に、海水注入の中止を指示。

19時25分
東電は、海水注入を中断。

19時40分:原子力安全委から首相に、「海水注入による再臨界の心配はない」と報告。

19時55分:首相は海江田経済産業相に対し、海水注入を指示。海江田大臣から東電に、注入再開の指示。

20時20分
海水注入を再開

20時50分
枝野官房長官は、原発の爆発について「炉心の水が足りずに発生した水蒸気が水素となって酸素と合わさったため。格納容器に損傷はなく、外部の放射線物質は爆発後のほうがむしろ少ない」と談話。

22時15分
地震発生で作業を一旦中止

23時03分
原子力安全・保安院は、「環境中の放射線モニタリングの値が下がっており、現時点で炉心溶融が進行しているとは考えていない」と発表。

23時31分
原子力安全・保安院は、福島第1原発1号機の事故は、原子力事故・トラブルの国際評価尺度で1999年の東海村臨界事故に匹敵する「レベル4」に相当すると発表。


<3月13日>
未明
1号機の原子炉圧力容器に海水を入れる作業再開。

時間不明
1号機について、原子炉圧力容器への海水注入作業が完了。


<3月14日>
11時1分
3号機で水素爆発

13時38分
2号機について東電は、原子力災害対策特措法に基づき国に「緊急事態」を通報。
東電は、2号機に海水注入を開始。

19時45分
東電は、3号機の冷却水が大幅に減少し、約4メートルある燃料棒がすべて露出したと福島県に通報。(原子炉は2時間余にわたって「空だき」状態になったとみられる)

21時頃
福島第1原発の正門で中性子線を検出。
事実を時系列に並べていくだけで、重大なことが分かります。
今大騒ぎしている「海水注入の中止を官邸が東電に指示したか否か」の見方が変わってきます。
海水注入の13時間も前に、1号機は「全燃料が溶融。炉心溶融状態」になっていました。
さらに、水素爆発は、3時間半前のことです。
炉心溶融も水素爆発も、今騒いでいる海水注入が原因ではないということになります。
東電、斑目委員長(原子力安全委員会)、官邸の三者の発言内容が食い違っているという問題は、
見過ごせない問題ではありますが、今回の事故の分岐点ではなくなります。
海水注入問題より、炉心溶融がこれだけ早い段階で起きていたことを知らされなかったことのほうが重大です。
私は、12日の原子力保安院の発表内容に注目しました。

9時00分
原子力安全・保安院は、1号機で「炉心溶融」が起きた可能性が高いことを発表。

12時26分
1号機で、炉心の水位低下による燃料の露出が午前11時20分現在で最大90センチに達したと原子力安全・保安院が発表。
これより前、6時には炉心溶融が起きていたのです。
この事実を知った上で、この発表であったのなら、保安院は大した「役者」ということになります。
菅首相に至っては、9時~10時の間と思われますが、

時間不明
首相は、東京に戻った後、「原子炉は大丈夫だ」と報道陣に語った。
との会話があったとされています。
午前6時の炉心溶融の事実と照らし合わせてみると、以下のどれかになります。

①菅首相は、知っていてウソを言った
②同行した斑目委員長(原子力安全委員会)は知っていたが、首相には言わなかった
③現場で説明した福島原発の吉田所長が保安院にも事実を伝えなかった
④本当に誰も事実を知らなかった

まるで怪談話です。どれであっても、本当にぞっとする話です。




【冷却装置の手動停止】

枝野官房長官は5月17日の記者会見で、3月11日に東電の職員が冷却装置を手動で止めていた問題に触れ、こう発言した(前出の「時系列表」の11日のところを見てください)。

<記者>
福島第一原発事故をめぐり、津波襲来前に冷却装置を手動停止していたことが分かったが、当初官邸はどこまで把握していたのか。

<枝野長官>
私は今日の報道で初めて知った。保安院等で詳細な分析と報告をするように求めた。

<記者>
手動停止の判断の是非は。

<枝野長官>
まず、その事実関係と経緯について詳細に東京電力に報告を求め、それを踏まえて評価、判断する必要があろう。
報告がなされたら報告に先立ってかも知れないが、全面的にその内容については公開するよう求めたい。

上記の問答と合わせて考えてみると、東電側が、冷却装置の稼働のこと、1号機の炉心溶融のことなどを官邸に黙っていたことがうかがえる。(保安院への報告の有無は分からないが)

官邸は、東電報告を鵜呑みにして、我々国民に発表していたことになる。
事前に知っていたら、炉心溶融1時間後の首相の原発入りは、さすがに中止したであろう。

東電は、「地震による原子炉の損傷は無い。想定外の津波により・・」を言い続けていた。
しかし、津波来襲前に損傷があり、電源を喪失。さらに、翌日早朝には炉心溶融を引き起こしていたのである。この事実が明るみに出れば、「全国の原発が止まりかねない」と思ったのでないか。
あるいは、稼働開始から30年で止めるはずだった1号機を、その後10年も動かした無理という「老朽化問題」の浮上を避けたかったのか。

原子力安全・保安院は、そんな東電を監督・指導する立場にある。
東電と癒着していたかどうかは分からないが、機能していなかったことは事実である。
原子炉の安全性の問題は、技術面以上に、運営・行政にあることが分かったと思う。

人通りの消えた浪江町の中心部。短期間でしたが、暮らしていた町です。胸が痛くなります。