第14回:工程表

2011.04.18



第5回(4月13日)から少し日が空いてしもうたの。
特別講師が忙しくてなって、なかなか掴まらなかったんじゃ。

ところで、4月17日、東電が事故収束に向けた「工程表」なるものを発表した。
これについて、避難されている方々を中心に疑心の声があがっとる。
「信用できん!」
一言でいうと、こうなんじゃな。
不謹慎な言い方ですまんが、戦争中の「大本営」発表みたいに受け取られてしまっておるようじゃ。
ここはひとつ、特別講師に解説をお願いする。




【東電の工程表は信用できるのか?】

東電から以下のような工程表が発表された。


「これでは、一般の方は分からないだろうな」と思っていたら、簡易版が出た。
まあ、こちらのほうが分かりやすい!



案の定、マスコミは一斉に批判的なコメントを載せた。
そして、例によって、避難住民の方々に語らせる。
そこに巻き起こるのは、怒り、不安、疑心暗鬼。
当然である。
私だって、同じ状況に置かれたら、同じ怒りや不安をぶつけるであろう。
だが、この工程表を批判することに、なんらの意義は見出せない。
怒りや不安を助長するだけのマスコミ報道は、百害あって一利なしである。

一番情報を持っているのは、間違いなく東電である。
ならば、感情は抑えて、この工程表を冷静に分析してみるべきであろう。
マスコミには、それを望みたい。

この工程表を見ると、以下の2期に分けて、それぞれの目標を設定している。

・ステップ1(3ヶ月後)  :放射線量が再び増えることのない落ち着いた状態にする
・ステップ2(6~9ヶ月後):放射線量をさらに大幅に減らす

そして、ステップごとに、
①原子炉や核燃料貯蔵プールの冷却機能の回復
②放射性物質による汚染の対策
③放射線量の監視や除染
の3課題について具体的な目標を設定してある。

原子炉格納容器を水で満たす「水棺(すいかん)」や原子炉建屋を覆う応急措置にかかる手間を考えると、この期間設定は見切り発車であろうと推測する。

私は、この2つのステップを、6か月と12ヶ月(1年)と推定していた。
東電はその半分の期間でやるというのだから、相当に思い切った発表と分析している。
避難生活でご不便、ご苦労をされている方々からは、「東電寄り」と非難されるかもしれないが、
これが、今の東電の「精一杯」なのであろう。
これを現実として直視するしかない。

今回の放射能除去は、作業員の安全面、そして技術面を考えると、非常に困難な仕事である。
また、我が国は、除去の経験も少なく、訓練は全く不足している。
だから、手探りが続く現状を考えると、この工程が守れるかどうかが心配である。
この先の推移を注意深く見守っていきたい。




【水棺(すいかん)で冷やす! そんなこと可能なのか?】

東電は、原子炉の安定冷却に向け、3カ月後までに1~3号機の格納容器を水で満たす「水棺」と呼ばれる対策を掲げた。
今回の工程表の目玉の対策といえる。

電源が回復しても冷却装置を動かせない現状は、冷却配管系統の損傷が致命的なことを意味している。
それで、格納容器を水で満たし、外部に設ける冷却装置で冷却する案が浮上した。
しかし、格納容器に損傷があれば、水は漏れてしまう。

1号機では、水素爆発を防ぐために窒素注入が行われているが、炉内の圧力が、10日頃から上がらなくなっている。格納容器からの漏れがあるものと思う。

3号機の格納容器の密閉状態は不明のまま。

2号機は確実にダメである。
格納容器とつながる圧力抑制室が爆発で損傷し、穴が空いているのは確実である。
ここが、タービン建屋に漏れている高濃度の汚染水の漏出源とみられている。
こんな状態で水を入れたら“じゃじゃ漏れ”で、汚染水を増加させるだけである。
東電は、粘着質のセメントで穴をふさぎ、水棺を実施する案を示したが、工程表には「損傷箇所の密閉作業が長期化する恐れ」と記載してある。全く自信がないと思える。
勝俣恒久会長も、記者会見で「できる保証はない」と言葉を濁した。

また、循環ルートの配管が使えるかどうかだが、建屋内は放射線量が高く、作業員が入っての作業は不可能と思われる。
結局、冷却装置の設置作業には「線量の大幅削減が前提」であり、線量を大幅削減するには「冷却装置が必要」と、いたちごっこなのだ。
質の悪いブラックジョークとしか言いようがない。

以前、本コーナーへ投書のあった「原子炉建屋全体を大きなドームで覆い、水で満たして冷却する」という案のほうが現実的かもしれない。

本案の提唱者からは、「原子炉が出す余熱を使えば、自然循環で水を回せて冷却効果を高められる」との指摘もあった。
一考に値すると思うが、東電はいかに思うか。




【ところで、現状はどうなっているのか?】

東電は、15日夜に原子炉建屋などの写真を公開した。
無人ヘリなどの機材を投入し、これまで放射線量が高くて作業員が近づけない場所を撮影したものである。
水素爆発などで大きく傷ついた様子がかなり鮮明に分かる。

写真はBBC mobileより。


【1号機、および3号機は?】



3号機は、鉄筋の垂れ下がっている様子が生々しい。
しかし、写真の左側には、プールのへりを超えて水があふれているのが鮮明に写っている。
燃料プールはなんとか水位を保っているようだ。




【4号機は?】

地震のとき4号機は運転停止中で、炉心には燃料棒が入っていなかった。
従って危険は燃料プールに集中している。
そのプールの写真が公開された。




撮影の様子を 右記の断面図に示す。

東電によると、採取した水の分析から、プールでは水温が爆発前日の84度を上回る90度まで上昇していたことが判明し、注水作業が続けられている。

また、セシウム137などの放射性物質も検出されていた。

この結果から、プールに保存されている核燃料が損傷していることは、ほぼ確実となった。
燃料プールはむき出しで大気に開放されていることから、

周囲の放射線量を正確に調べ、場合によっては、遮蔽物でプールを覆うことも考えなくてはならない。




【原子炉建屋の中は?】

東電は、1、3号機の二重扉の一つ目の扉を開けて中の放射線量を調べた。
1号機では1時間当たり最大270ミリシーベルトと高い線量を記録した。
3号機では同10ミリシーベルトだったが、18日になって57ミリシーベルトに上がった。
原因は不明だが、今までの計測結果(10msv)が低すぎた。計測の信頼性のほうが問題といえよう。
これだけの高線量では、1号機の建屋内に人間が入って作業をすることは難しいし、3号機も計測の信頼性が揺らいでいる現実では無理は出来ない。

現在、以下の写真のようなロボット(米国が無償提供)を使って、二重扉の二つ目の扉を開けている。
ロボットをさらに中に進ませ、内部の撮影や放射線量の計測などを行う。
その結果が、これからの作業の可否のカギを握っているといえる。

【計画的避難区域とは?】

またひとつ、難解な言葉が生まれた。
どうやら、村民すべてが避難を強いられる予定の区域ということらしい。
30km圏外にありながら、福島県飯舘村がこの区域に指定される予定と聞く。
飯舘村の4月15日までの累積線量は、右図にあるとおり、9.85ミリシーベルトである。
累積値が10ミリシーベルトを超えると、避難が強いられるということらしい。
しかし、この処置は行き過ぎではないか。
10ミリを超えるといっても1ヶ月という期間の累積値である。
また、飯舘村の直近24時間の平均は、0.0116ミリシーベルトであるし、日が経つにつれて線量は下がっていくと予測される。

前号(第5回)でも説明したように、累積で10ミリシーベルトは厳し過ぎる。
村民の生活を犠牲にしてまで避難させる必要はないと断言する。
それより、適宜、情報を伝え、万が一のレベルとその時の避難方法を地元と協議すべきではないかと思う。




【質問への回答-4】

一度にたくさんの質問をいただいているので、少しずつ回答していく。

質問1:京都大学原子炉実験所の小出裕章 助教授が、1号機からのクロル38検出により再臨界の
可能性を指摘していますが、これはありえますか?

回答:この質問には前号で回答しましたが、補足を加えて再掲載します。
4月8日に、1号機の格納容器内の放射線濃度が毎時100シーベルトに上昇したこと、
およびクロル38が検出されたことで、小出裕章先生は、炉内で再臨界が起きている可能性を指摘されました。
しかし、小出先生は「臨界が起きた」と断定されているわけではなく、『再臨界が起きている可能性が強まった』と言っておられます。
また、「計器の故障」である可能性もあると言っておられます。

私の回答は、「燃料の溶融が進めば再臨界はあり得るが、現在は確認できない状態」です。
また、たとえ再臨界が起きても、小規模で、一定時間後、臨界停止になると思います。
核爆発は起きないと断言してもよいでしょう。


質問2:小出裕章助教授はさらに、最悪の事態として水蒸気爆発により数十倍以上の
放射性物質拡散、東京まで危険な事態(単純に同心円ではなく風向きなどにより)
になることを懸念されていますが、これはありえますか?
あるとすれば、どれほどの規模で拡散の危険性が考えられますか?また、さしせまった
状態でしょうか?(10日以内とかのレベルでしょうか?)

回答:「ないとは言えないが、その危険はほとんどない」という回答です。
「水蒸気爆発」とは、原子炉の炉心が溶けて、圧力容器や格納容器の底を抜き、その下に水があった場合、その水と激しく反応する爆発のことです。
名前は似ていますが「水素爆発」とは爆発のメカニズムが違います。
またはるかに大きな爆発になります。
チェルノブイリは、この「水蒸気爆発」を起こし、成層圏にまで放射性物質を噴き上げてしまいました。
今回は「水蒸気爆発」に至っていないのに、チェルノブイリと同レベルの「レベル7」に引き上げた政府・保安院の見解がおかしいことが分かると思います。
今の状態で水蒸気爆発が起こる可能性はほぼゼロに近く、東京がどうとかは全く考える必要はないでしょう。


質問3:1号機において水蒸気爆発が起こるというのは、どのような過程で起きることが考えられますか?
回答:質問2で一緒に答えました。


質問4:1号機の格納容器の下は、コンクリートと地盤ですか?(水、プールはない?)
または、空間がありますか?(圧力容器から漏れた水がたまる空間がある?)
回答:1号炉の断面を下図に示します。



格納容器の下は厚いコンクリートです。
また、ドーナツ状の圧力抑制室は独立していて、格納容器とはパイプでつながっています。
ですから、格納容器の下に水が溜まる構造にはなっていません。
「水蒸気爆発」の可能性はほとんど無いでしょう。
最悪、格納容器が融けたとしても、下の土台には中性子線を吸着するグラファイト(黒鉛)が練り込まれています。
ここで核分裂の反応=再臨界は止まります。
水との反応は起きない仕組みです。




【各号機の危険度】

下表に、4月17日現在の各号機の状況を示す。
ただし、報道や広報からの推定であることを断わっておく。




 
今後は、工程表の追っかけじゃな。
質問の残りは、特別講師に次回での解説をお願いした。