第7回:3月21日現在
2011.03.21
今回は、原発ができた頃に遡って知識を付けてもらおうと思うのじゃ。
専門的な話も多いが、先ずは特別講師の話を聞くとしよう。
21日現在、いくつか大きな問題が残されているので、再補足をします。
【福島第一原発の概要】
まず、本原発の型式や能力、どこが建造したのかを一覧表にする(出典:東京電力)。
全体で約470万KWと、小さな国一つ分くらいの発電量を持つ。
東電の原発は「沸騰水型軽水炉(BWR)」で、米国GE(General Electric=ゼネラル・エレクトリック)、日立製作所、東芝の三社が設計・製造・建設を請け負った。
ちなみに関電は、「加圧水型軽水炉(PWR)」を採用、設計・製造・建設は米国WH(Westinghouse Electric =ウェスティングハウス・エレクトリック=2006年に東芝が買収、関連会社となる)と三菱重工業が請け負った。
「マークⅠ」はGEが開発したかなり古い型の原子炉である。
【地震発生時の原発の稼働状況】
11日の地震発生時の各号機の稼働状況を下記の一覧で確認して欲しい。
【原発の現状はどうなっているのか?】
東電、原子力安全・保安院、および北沢俊美防衛相等の発表から、21日の現状を上表に整理した。
3号機で格納容器の一部が損傷している怖れがあるが、危険というレベルではないだろう。
4号機は燃料プールの損壊が懸念されているが、外部にプール水が出た形跡はない。
他は、おおむね安定状態にあると考えてよいであろう。
ただし、1~4号機では燃料棒の一部破損が起きていると思われる。
【電源回復は出来るのか?】
電源が復旧すれば、原子炉と使用済み核燃料プールを恒常的に冷却できる。
特に、ECCS(緊急炉心冷却装置)が動けば、圧力抑制プールにたまった数千トンの水を、炉心の真上から一気に注ぎ、圧力容器を数分で満水にすることができる。
ただ、原子炉内の温度はかなり下がってきているので、その必要性は薄いと思う。
ECCSの別系統である「残留熱除去系」を使い、格納容器内の上部から水を注いだり、圧力容器に直接水を送り込む方法を採るのではないかと思う。
この装置は、燃料プールも冷やせるので、とても有効である。
問題はポンプ等が動くかである。
格納容器内にある冷却水循環ポンプは、津波の水をかぶっていないので、大丈夫と思うが、
外にある海水ポンプや他のモーター類は津波の水をかぶったので、交換が必要かもしれない。
東電はすでに予備のポンプを36台準備したので、数日から数週間で復旧するであろう。
【米国の反応を過剰と断定してよいか?】
米原子力規制委員会が、今回の事故の危険度をチェルノブイリ原発事故と同等のレベル7に引き上げたことによって、80㎞(50マイル)圏外への避難勧告が出たようだ。
参考として、チェルノブイリの被ばく結果を以下に示す。
原発から風下の角度5度程度のごく狭い地域を対象にした数字である。
おそらく、この結果から右のような図が流布したと思う。
なるほど、これを見れば80km圏内は危険があるように考えてしまうであろう。
さらに、230Km程度のところで東京も圏内に入ってしまう。
でも、この図は、単に福島第一原発からの距離を示した地図に過ぎない。
「危険マップ」などではない。
落ち着いて判断していただければ、「何の根拠もない」図であることが分かるはずである。
【でも、米国の専門家が4号炉の燃料プールは破壊されたと言っているが?】
米国発の記事をそのまま転記する。
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『福島第一原発4号機の使用済み核燃料プールで水漏れが起こっている可能性をアメリカの専門家が指摘し、懸念を表明しました。
元エネルギー省高官:「私も米政府と同じ立場で、冷却水が完全に、または部分的に漏れていると思う。水が漏れると使用済み核燃料が燃えやすくなり、実際に火災も発生している」
ワシントンで記者会見した元エネルギー省の高官は、4号機の使用済み核燃料プールが水漏れを起こしていて、温度が上がり、火災が発生したとの見方を示しました。そのうえで、この状況が悪化することが懸念されると指摘しました。原子力規制委員会のヤツコ委員長も、議会の公聴会で「プールに亀裂があれば水漏れの可能性がある」と証言しています。一方、日本政府の原発への対応にアメリカのメディアから批判の声が上がるなか、藤崎一郎駐米大使は「やれることは何でもやる」と話し、政府を信用してほしいと訴えました。』
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米国メディアは、福島第一原発内にいた米国人もプール破壊を証言したと報じているが、当の本人が誰かは明かしていない。
本当にそのような米国人がいたかの確証も取れていないことから、このような話は幽霊話と考えてよい。
(海外報道では、「フクシマ50」として、原発内で作業している英雄的な作業員50人がいると報じているが、そもそも、作業している人はそんな数ではない。交代もしているし、実際は数百人レベルに上る。報道とは内外問わずこのレベルと思ったほうがよい)
そこで、4号機の破壊の様子を報道写真から推定してみることにした。
(ただし、個人的な見解であることをご承知おきいただき、ご判断は各自でお願いします)
左上の写真は自衛隊撮影、右上はANNニュースの映像、下は東電発表の映像から。
4号機の映像は3号機に比べると少なく、そんなところも「何かを隠しているのでは?」との疑惑を呼ぶ。もっと映像が欲しいところである。
各号機の破壊の程度を図解する。
これは、1~5号機の「マークⅠ」型の断面図である(東電の広報資料より)。
燃料プールは原子炉建屋の4階に置かれ、その水面は5階にある。
4号機は15日午前6時ごろに爆発し、同9時38分に火災が起きた。
原子炉建屋の5階から上部の壁は失われ、3、4階の壁も一部崩れた。
建屋の北西の壁に8メートル四方の穴が2カ所開いている。
4号機はプール水面から燃料が露出したことで水素爆発が起きたと考えられる。
しかし、16日に自衛隊のヘリに同乗した東電社員は、プールの水面を確認し、燃料も露出していないと報告した。
これが事実なら水素爆発の説明がつかない。
原子力安全・保安院の説明でも、爆発の原因ははっきりしない。
こうしたことが米国の懸念を呼んでいるものと思われる。
だが、米国のいうように、燃料プールが破損し、プールの水が失われ、燃料棒がむき出しになっているとすると、高レベルの放射線を放出し、とても人間が近づくことは不可能になる。
しかし、注水している消防車などは20m近くまで接近しているようだし、隊員の被ばく量も全員が1ミリシーベルト以下(健康被害なしのレベル)とのことである。
これらの結果から類推すると、燃料棒の一部が露出し水素爆発を起こした可能性は高いが、
米国がいうような「プールがカラ」は無いと思う。
また、建屋の損傷が3階、4階の一部にあることから、燃料プールも一部損傷した可能性はあるが、水は保っている可能性のほうが高いと思う。