第19回:もんじゅ特集 その1

2011.06.03



さて、今回は予告から遅れたが、高速増殖炉「もんじゅ」の特集を送ろう。

福島第一原発以上に「ヤバイ」と言われておる「もんじゅ」。

その実態と問題点を特別講師に分かりやすく解説してもらった。

原稿の量が多かったので、2回に分けて送ることにした。

今回はその第1回である。



冒頭で、福島第一原発のことを少し書かせてもらう。

【圧力容器の損傷】

今さらだが、東電は事故から2ヶ月経って、やっと圧力容器と格納容器の損傷を認めた。
だが、この「損傷」と言う言葉、報道でもさかんに使われるが、誤解を招く言葉である。
圧力容器本体は厚さ16cmの鋼鉄製で、今も容器自体が破壊されたということは無いと思う。
(誰も目視出来ていないので、推測するしかないのだが・・)

しかし、制御棒や冷却水配管などの外部装置とつながる接続口はそれほどの強度がない。
この溶接部が溶け、そこから汚染水が漏れていると推測される。
この状態を『圧力容器が損傷』と言っているのだが、

「圧力容器本体は無事だが、接続口や配管類は損傷し、穴が開いた状態になっている」というのが正確な言い方である。
この原発事故コーナーでは、努めてそのような言い方をしてきた。
しかし、報道は「圧力容器損傷」と書くので、本体が破壊されたかのような印象を持たせてしまう。
格納容器も同様である。
せめて、政府や東電の発表では正確な物言いをして欲しいものである。




【1号水位計はあてにならない】

先日、発表された東電の資料(「こんな資料が見つかりました」と言って公開された資料)の中に驚くべき写真があった。
事故当日(3月11日か12日)の東電内と思われる場所にあったホワイトボードの写真である。
事故発生当日の様子が生々しく走り書きされていたが、そこに小さく「1号水位計はあてにならない」との記述があった。
つまり、その段階で、東電は、水位計が故障したことを知っていたわけである。
それなのに、その後、延々とこの水位計の数字を発表し続けていた。
それを信じて、私も燃料棒の上部が露出して破損が起きているが、全溶融には至らないだろうと思い込んでいた。

しかし、その水位計の針があてにならず、容器内に水がなかったとしたら、全く状況は異なる。
早い段階で全燃料は溶融し、圧力容器の各種接続口の溶接部を溶かし、そこから外へ出てしまうことは確実といえる。
この大事な事実を隠していた(?)としたら、とんでも無いことである。

さて、本題のもんじゅの解説を行う。
本コーナーの第8回で、以下のご質問にあった「もんじゅ」の解説を保留にした。
ご質問を下さった方には、大変にお待たせしました。申し訳ありません。




【質問14】
先日、ある教授が、福島原発が現在、爆発する可能性は、他の原発が地震によって危険な状態になる可能性より低い、というようなことをおっしゃっておられたのですが、そのことで、日本国内の他の原発が、急に心配になってきました。
心配してもきりのないことなのですが、たとえば、今、問題とされている福井県の高速増殖炉「もんじゅ」の危険性はどれくらいのものなのでしょう。
もんじゅは、表に放射能が漏れてないだけで、実際は、近い将来、福島よりも大変なことになる可能性が高い、と聞きました。
関係者が自殺されたとか・・・・。
もんじゅについて、いろいろ語っておられる方はおられますが、信頼しておりますこのサイトでご説明いただけたら、と思ってメールしました。
お忙しいと思いますし、今は、福島のことで手一杯でおられると思いますが、
何かの機会に、これについても触れていただけると、ありがたいです。

【回答14】
さて、ご質問の主旨、高速増殖炉の「もんじゅ」の解説を、順を追って行っていきます。




【最近出たデマ】
先日、「もんじゅから白い煙が上がっている」との情報がツイッター上に出て、騒ぎになりました。
公開されているもんじゅのパノラマ画像(15分置きに更新されている)を見た人がつぶやいたようです。
ネット掲示板に、このパノラマ画像が張り付けられ、ツイッターでは「やばいことが起きている」というような書き込みが氾濫しました。
結局、原子力機構から「この煙はボイラーから放出されている蒸気で、放射性物質は含んでいない」との説明があって沈静化しました。
その後、出所不明の「もんじゅ被害想定マップ」がネットに掲示され、あたかも「関西全滅、東京も被害地域に・・」を思わせる内容になっていて、ひと騒ぎになりました。
結局、悪質なデマと分かりましたが、福島第1原発の事故で誰もが神経質になっている上に、もんじゅでは「燃料交換装置の落下」という事故が起きたことが報道されています。

デマが広まる素地を解消しない限り、この種のデマはまた起きると思われます。



福島原発のような原子炉が「軽水炉」と呼ばれていることはご存知と思います。
原子炉の熱を伝える「冷却材」として真水を使うことから「軽水炉」の名が付きました。
日本を含む世界中の原子炉の大半が、この型です。

一方、高速増殖炉はこれとは全く別の型の原子炉です。
一言でいえば、「核燃料を燃やし(核分裂させ)、そのエネルギーで発電したうえで、さらに新たに燃料となるプルトニウムを生み出す」原子炉です(下の図を見てください)。



燃料のプルトニウムを燃やして発電したのに、新たな燃料となるプルトニウムが作られるというわけです。
なんだか魔法のような話ですね。

種明かしをすれば、燃焼後の「燃えカス」から新たな燃料となるプルトニウムが取り出せるということですが。

以下に、少し学術的に説明しましょう。(分かっておられる方は読み飛ばしてください)





【燃料が燃えるとは?】

原子炉における「燃焼」とは、火力発電所のように文字通り火を燃やすわけではありません。
ウランのような核物質が分裂した時に出る「中性子線」が別のウランに当たり、このウランを分裂させます。
そうすると、そのウランからまた中性子線が出て、別のウランに当たり・・と分裂の連鎖反応が起きます(右の図)。
この反応を一気に引き起こすものが原子爆弾ですが、ゆっくりと長期間に渡って引き起こし続けるものが原子炉です。




【原子燃料とは?】

よく「ウラン燃料」と言いますが、燃料として使えるのは「燃えやすいウラン235」で、天然ウランの中には、たったの0.7%ぐらいしかありません(下の左の図)
このウラン235の割合を「ウラン濃縮」によって3~5%に増やします(真ん中の図)。
これをフッ素加工物で焼き固めて安定化させたものが「ウラン燃料」で、「イエローケーキ」と呼ばれています(右の図)。
本当にスポンジケーキのようですね。



【原子燃料が燃えると?】

このウラン燃料が燃える(核分裂する)と、核分裂のエネルギーを放出した後、燃料の中の元素の構成が変わります(下図)。





燃焼後の燃料(これを「使用済み核燃料」と呼びます)の構成は、右の図のようになります。

このように、まだ燃えやすいウラン235が1%ぐらい残り、そしてプルトニウムが新たに1%ぐらい生まれます。

この使用済み核燃料を「再処理」と呼ぶ作業で、燃料となる部分と廃棄(保管)する部分とに分けていきます。






【MOX燃料とは?】

再処理によってプルトニウムを取り出しても、そのままでは新たな燃料にはなりません。
二酸化プルトニウム(PuO2)と二酸化ウラン(UO2)を混ぜてプルトニウムの濃度を4~9%に高めます。
これがMOX燃料(モックスねんりょう)と呼ばれる燃料で、福島第一原発の3号機に装填されていました。
MOXとは(MixedOXide)の頭文字を採ったもので、「混合酸化物燃料」という意味です。
これが、高速増殖炉の燃料になるのですが、軽水炉用の燃料ペレットと同一の形状に加工し、ウラン燃料の代替として用いるようにしたのが、プルサーマル利用です。




【高速増殖炉は、軽水炉とどこが違うのか?】

高速増殖炉は、MOX燃料の中のプルトニウムを燃やして発電しながら、燃えにくい「ウラン238」を燃えやすい「プルトニウム239」に変換することで、『発電しながら、新たな燃料を作っていく』原子炉です。下図は、その仕組みを図解したものです。


【なぜ、高速増殖炉というのか?】

高速増殖炉では、プルトニウムの核反応を促進する必要があります。
軽水炉では冷却材の真水によって中性子の速度を減速しますが、高速増殖炉では核反応の促進のため、高速の中性子をそのまま使います。ここから「高速」の名前が付いています。





【もんじゅ建設までの経緯は?】

高速増殖炉は、「使った燃料以上の燃料が新たに作られる」ことから「夢の原子炉」とも呼ばれ、国の期待を一身に背負い開発がスタートしました。

それまでの軽水炉とは違い、純国産技術で造る原子炉であることもその期待を後押ししました。



最初に、真水(軽水)の代わりに重水(注釈1)を冷却材として使う「重水炉」の「ふげん」が作られました。

この炉も、プルトニウムを含むMOX燃料を燃やし、発電と同時に新たな燃料を生成することから「新型転換炉」と呼ばれました。

ちなみに「ふげん」の名は、仏教の「普賢菩薩」から採ったことは有名な話です。



         注釈1:重水=原子量2(普通の2倍の質量)の水素を含む水。海水中に存在する。



その後、高速増殖炉の実験炉となる「常陽」、そして原型炉(実証炉の一歩手前)となる「もんじゅ」へと開発は引き継がれてきました。

「もんじゅ」の名は、ふげんと同様に「文殊菩薩」から採られました。




【新たな燃料の生成割合は?】

新型転換炉「ふげん」は、使った燃料と新たに生み出される燃料の比率が1:0.6ぐらいなのに対し、「もんじゅ」は、この比率が1:1.2(つまり、使った量より新たに生み出される量のほうが20%多い)という性能です。




【発電のための仕組み】

下の図を見てください。
これが「高速増殖炉」の発電の仕組みです。「今までの軽水炉とどこが違うの?」ですか
そうですね!
原子炉で発生した熱で蒸気を作り、発電タービンを回すという、沸騰水型軽水炉(福島原発もこの型)と基本的な原理は一緒です。

ただし、原子炉で発生させる中性子が、ある一定の速度以上でないと、プルトニウムを増殖させる効率が向上しません。
そのため、中性子の速度を高速で維持しなければならないという制約があります。
ですから、軽水炉のように、冷却材として水を使うことができないのです。
水は中性子の速度を大幅に落としてしまうからです。
さらに、熱伝導率が非常に高い冷却材でないと十分に熱を取り出すことができません。
これらの制約から、高速増殖炉では冷却材として「液体ナトリウム」を使うようにしています。





【ナトリウムとは?】

ナトリウムは原子番号11の元素で元素記号はNaです。みなさん、学校で習ったと思いますが・・
非常に反応性の高い金属で、酸や水と激しく反応します。
水と反応すると、水素を発生させながら水酸化ナトリウム(NaOH)=苛性ソーダになります。
また、ハロゲン(Cl2)の単体と結合(反応)すると「塩」になります。あの食べる塩です。

化学反応式は以下のようになります。
Na+1/2Cl2→NaCl
ナトリウムが塩の構成元素であることを思い出しましたか?