第9回:3月27日現在

2011.03.27

 


福島原発の事故を3月15日~22日まで日毎に解説してきたんじゃが、
続編への要望も多い。

そこで、特別講師にお願いして、「福島原発の事故を考えるコーナー」
を新設した。

出来る限り分かりやすく、かつ真実に近い解説をお願いしたので、
ぜひ読んで欲しい。




【政府広報は天気予報?】

「最悪の事態は免れた」、「しかし予断はゆるさない」
最近の政府広報は、こればっかり。
これでは、事態が安全側に向かっているのか、そうでないのか、さっぱり分からない。
上記の2つの言葉を一般の人にも分かりやすく言い換えると、

「最悪の事態は免れた」⇒ 原子炉爆発は起こらない
「予断はゆるさない」 ⇒ 燃料棒の破損、プールの破損は起きているらしい

では、なぜ、そう言わないのか?
明確に言い切って、もし違っていたら、“責められる”からである。
天気予報の「晴れのちくもり、ところにより雨」
要するにこれである。




【原発の現状はどうなっているのか?】

下表に、各号機ごとの現状を超簡単に整理してみた。
ただし、報道や広報からの推定であることを断わっておく。


・地震発生時4~6号機は停止していたので、原子炉に関する危険はない。
・問題は運転中の1~3号機に集中しているが、炉内が見えない以上、全ての断定ができない。
・4号機は停止していたが、使用中だった燃料棒が燃料プールに移されていたので、
プールの危険性が高い。




【あの水たまりは何?】

24日、3号機のタービン建屋地下の水たまりで作業員2人が足に被ばくした。
(場所は、下図の右側の建屋の地下)

結局、25日までに1~4号機の全ての地下に水たまりがあることが判明。
タービン建屋は原子炉建屋とつながっているので、原子炉からの漏水がタービン建屋に伝わってきたのか、
それとも配管系のどこかで漏水しているのか。

 
 
報道では、「厳重に閉じ込められているはずの核燃料の一部が原子炉建屋の外に漏れ出た可能性」とあるが、
これは正確な言い方ではない。

圧力容器には損傷がなく、格納容器にも重大な損傷はないであろう。
しかし、原子炉には各種の配管がつながっているのである。
地震および水素爆発等で、これらの配管に損傷が起きたことは十分考えられる。
もちろん、緊急事態発生で仕切り弁が閉じられ、外界とは遮断されたはずであるが、圧力容器の壁ほど強固ではない。
容器との接続部分に亀裂でも入ればそこから冷却水は漏れる。
また、配管系はそれほど強固ではない。どこかが破損している可能性は高い。
水たまりは、それらの漏水ではないか。




【この水は危険?】

この水は放射能汚染されているが、濃度はそれほど高くないはずであった。
しかし、2号機の水から原子炉の冷却水の約1万倍の濃度の放射能を持つ放射性物質が検出された。
さらに、ヨウ素131やセシウム137などが検出されたことで、燃料の一部が溶け、
それが冷却水に混ざり漏れ出した可能性は濃厚だ。
燃料棒の破損はほぼ確実になったといえる。





【本当は、原子炉溶融が起こっているのではないか?】

燃料棒の破損が、ただちに原子炉の炉心溶融につながるわけではない。
燃料棒の中の燃料ペレットが全て溶け落ち、ドロドロになって圧力容器の底にたまり、
圧力容器の底を溶かす事態のことを炉心溶融と言う。
その可能性はゼロではないが、今は起きていないし、起きる可能性も低い。


【いつになったら収束するのか?】

下の写真は、25日に東電から発表された中央制御室の様子である。
水素爆発には堪えたようだが、機能回復には時間がかかりそうである。
収束には、数か月から1年は覚悟しなければならないかもしれない。


【放射能被害は拡大する?】

3号機で汚染水に触れた2人からは、2~6シーベルト(2000~6000ミリシーベルト)という高い放射線量が検出された。
この数値は、全身に浴びれば死の危険がある値だが、今回は局所被ばくなので、大きな問題とはならないであろう。
(下表参照)

この被ばく線量について、報道や広報では数値(ミリシーベルト、マイクロシーベルトなど)しか言わないので、
聞いている方は混乱していると思う。
1時間当たりとか年間、あるいは1回だけの数値が混同されている。
それで、以下の表を作った。知識を整理して欲しい。


私の場合、3ヶ月の作業(ほぼ毎日原発内にいた)で、白血球、赤血球の数値に異常が出た。
被ばく量は、累計で2000~3000ミリシーベルト(推定被ばく量を含む)、1日のMAXで500ミリシーベルトぐらいと思われる。
幸い、その後1年間で血液の数値は元に戻った。
個人的に細胞の損傷修復能力が高かったようである。





【食べ物への影響は?】

こんな意見があった。
『信頼できる研究者はいないのか。放射能に汚染された食物を摂取した場合の人体への影響を知りたい。
「このくらいのレベルなら食べても大丈夫ですよ」と言ってくれる信頼できる専門家はいないのか。
毎日、TVには何が専門か分からないような「専門家」が出てきて何か言うが、聞く方はさっぱり分からない。

TVのコメンテーターやレポーターは、一夜漬けの知識だから、自分でも何を言っているのか分からないようで、
聞いている方はもっと分からない。

「牛乳から規制値の3~5倍の放射能が検出された」と言われても、この「規制値」が何を意味しているのか、
さっぱり分からない。だから、3~5倍と言われても、それがどういうことなのか全くピンと来ない。
要するに、毎日飲んでも大丈夫なのか、ダメなのかを知りたいのだ。
だから、風評被害が広がるのかも知れない。』

では、例で示そう。


先の表と比べて欲しい。

私なら毎日飲んだり食べたりすることに何の不安もない(もっとも、飽きるであろうが)。
政府も自治体も過剰な規制や報道を慎むべきである。






どうじゃな。食品については、「なんの心配もいらん」と言ってもよいじゃろう。
だが、原発の行方は楽観視できんようじゃな。
高濃度に汚染された漏水の存在が予想外だったようで、復旧作業が止まっておるようじゃ。
究極の選択(コンクリート詰めにする)は回避したいじゃろうから、今のような対処療法での手さぐりが続くようじゃな。

さて、本特別コーナーの今後の予告をしておこう。
下記の表題を計画しておるが、予告と異なる場合もある。
あらかじめ、断わっておく。

・ほんとに想定外だったのか
・原子力の基本知識と原発の構造
・冷却の仕組み
・放射性物質の放出
・破壊の程度は:原子炉建屋、格納容器、圧力容器、燃料棒、燃料ペレット、燃料プール
・設計上の落とし穴は
・経年変化と技術の未熟の怖さ
・運用上の欠陥
・放射能の怖さとは
・危機管理能力の欠如