第6回:3月20日現在

2011.03.20


特別講師が塾生に伝えたいことがあるそうじゃ。
ニュースや報道を見るときの参考にして欲しい。



前回、「本脳内道場の臨時回も、今回でいったん終了します」としましたが、多少補足を致します。


【海外の反応は過剰なのか?】

「米国が自国民に80km圏外への退避を指示した」とかのニュースが伝わると、不安になる人も多いであろう。
だが、米国の指示は根拠のあるものではない。
「80km=50マイル圏外」という、切りのよい(つまり、いいかげんな)数字である。
自国民向けのポーズと考えてよい。

以下に、対照的な海外の報道を挙げる。

・『日本は「世界一の地震国」として知られ、耐震工学の分野でも世界一と信じられてきた。
その国の原発が地震と大津波で破壊され、周辺で放射線が高い数値を示しているというの
では、世界中が一体、原発とは危険か否か疑問を抱くのも無理はない』
(イタリア3/20付け)

・『深刻な事故ではあるが、破局ではない。チェルノブイリに匹敵するものではない。
福島第1原発の事故は、日本を襲った(地震と津波の)巨大な悲劇と比べれば、それを超
えるものではない』
(フランス3/13付け)

フランスは世界一の原発大国である(電力の80%以上が原子力)。
また、原子力技術に関しても先進国である。
私は、原子力施設の設計に際して、フランス・サンゴバン社の仕様書を参考にしてきた。
(米原子力委員会の仕様書と併用してだが・・)


それに対して、イタリアは、先進国で唯一原発を持たない国である。
「だから、イタリアはダメ!」ということではない。
フランスとイタリアでは、原子力に関する情報量に雲泥の差がある。
どうしても、こうした報道になるのであろう。
海外の報道に耳をふさいではいけないが、踊らされてもいけない。





【原発の安全神話は崩れたのか?】

先のイタリアの記事では「原発が地震と大津波で破壊され・・」とあるが、正確な表現ではない。
まず、福島第一原発は今回の地震には耐えた。
津波の衝撃にも耐えた。
しかし、津波をかぶって電源を喪失した。
主電源が落ちる事態は想定されていたが、非常用電源までダメになることは想定されていなかった。
これは誤算であり、甘かったと批判されても仕方ない。
「想定外」というわけにはいかない。

電源喪失という事態の中で、なんとか原子炉を守りつつあることは賞賛してもよいと思う。
現場の職員、自衛隊、消防、警察の献身的な努力のたまものである。

こうして、かろうじて原発の安全性は確保したといえるが、
信頼が大きく傷ついたことは否定できない。
取り戻すことは大変である。




【電源喪失は防げなかったのか?】

今回、電源喪失さえ防げたら、なんの問題もなかったと思われる。
それが一番残念なことである。
この原発の場合、非常用としてディーゼル発電機が各号機に2台ずつ備えられていたが、大半が動かなかった(6号機の1台だけ稼働出来た)。
数台でも動けば、動かない号機に電力を回すことも可能だったと思う。
また、そのような設計になっていたはずだ。

電力が失われたことで、もっとも肝心なECCS(緊急炉心冷却装置)が沈黙した。
ECCSさえ動けば、炉心も燃料プールも安全を保てた。
つまり、非常時の電源確保に、もう一歩の配慮が足らなかったということである。

今回、東北電力の送電線から電力を引き入れ、一部で電力が復旧した。
なぜ、非常用電源もダメになった時に備え、この引込設備を最初から用意しておかなかったのか。
おそらく、東電は、このことに気付いて、悔やんでいることと思う。

ここで、どうしても考えてしまうことがある。
福島県は東北電力の管轄である。しかし、福島原発は東京電力の発電所である。
両電力会社間の取り決めのことは分からないので憶測でしかないが、
東北電力の電力線を引き込んでおくことが出来なかったのかもしれない。
それならば、福島に限らず全ての原発において、電力会社間の垣根を越えた取り組みが望まれる。





【原子炉は止めれば安全と思っていた?】

そう思っていた人が大多数だったのではないか。
核反応を停止しても、燃料棒があれだけの熱を出すことにびっくりした方が多いと思う。
「残留熱」とか「崩壊熱」とか言われている熱であるが、
これがやっかいな問題である。
原発内で仕事をしていた時、このエネルギーのすごさに驚愕していた。
原子炉を止めて1ヶ月近く経っても、格納容器の表面は素手で触れないくらい熱いのである。
炉心は、厚さ15~30cmの鋼鉄の圧力容器の中だが、
さらに、その外側は窒素が充填された格納容器の空間があり、
厚さ3cmの鋼鉄ライナーを貼った厚さ2mのコンクリートが格納容器の外壁である。
その壁がそれだけ熱いのである。
その熱を外へ逃がす冷却設備は重要なのである。しかし、それが動かなかった・・





【原子力行政に問題はなかったのか?】

原子力は巨大なエネルギーで、技術的に未確立なことも多い。
政府が、どこまでそれを把握していたかがはなはだ心もとない。
しかし、この点で現政権を責めるのは酷である。
政権を取って1年半では、全くの素人状態であろう。
長らく政権の座にいた自民党のほうに大きな責任がある。
このあたりの事情に詳しい関係者はいなかったのであろうか。
その声がさっぱり聞こえてこない。
それにもまして、行政の一貫性の無さが露呈した。
原子力行政の崩壊こそが、もっとも恐ろしいことかもしれない。




【個人攻撃は止めるべきではないか?】

菅首相が「オレは原子力に強い!」と豪語していたとの報道が一部にある。
真偽が定かでないので、この発言自体には論評しないが、
そもそも、このような報道自体、ナンセンスである。

首相は、東京工大という、理系では東大以上に入試が難しい大学のご出身である。
それだけの自負もあろうと思われる。
だが、首相個人のことをあげつらっても何の意味もない。
たとえ、首相が学問としての原子力に強いとしても、一度も現場を踏んでいないであろうし、設計に関与したこともないであろう。
つまり、素人に過ぎないのである。
そして、首相個人はそれでも何の問題もない。
首相や民主党を擁護する気持ちは毛ほどもないが、
このような報道に疑問を呈する。