第3回:日本の株価と国債(その2)

2012.06.29


◇円高と株安
株価が下がると、投機資金は株式市場から通貨市場に逃げ、ドルと円買いが進む。
特に円は避難先としての安心感からドル以上に買いが進む。
円高とは、このような簡単なメカニズムで進むのである。
海外では、日本から買うモノの値段が上がるので購買意欲が落ちる。
日本の輸出産業には厳しい局面となる。

だが、「大変だ!」と叫ぶ前に素朴な疑問を感じないか。
「円の強さ」と「日本の株の弱さ」の奇妙なコントラストに対してである。
いったい、日本経済は強いのか弱いのか。
単純に分析してみよう。

まず、日本経済の強さであるが、「強い」と言ってよい。
円高はなによりの証拠である。
投機筋は『安心して』強い円(つまり、強い日本)を買っているのだから。
それなら、なぜ株価が下がるのであろうか。理由は2つある。

その第一は日本人の気質にある。そもそも日本人は投資を嫌い、貯蓄を好む。
「投資は博打(ばくち)であり、まっとうな人間がすることではない」、日本人のこの価値感は今もって強い。
たとえば、昔ほどではないが、証券会社の社員より銀行員のほうが一般には信用されるであろう。
かくして、好不況にかかわらず、日本では貯蓄が減ることはない。
この貯蓄が膨大な国債を買い支えているのだから、一概に「悪い」とは言えないが・・

第二の理由は、日本の株式市場が外国人に対し閉鎖的だからである。
海外ファンドがもっと買いたいと思っても、制限の多さが、それをさせないようにしている。
これでは株価が上がらないのも道理である。
この国民気質と外国人買いを制限している政策が変われば、日本株は広く買われ、株価は上がる。


◇二人の投資家
筆者が本連鎖を思い立ったのは、株価が8,000円すれすれまで下落し、悲観論一色の時期であった。
その中で「日本復活」を主張するのは躊躇があった。
だが、筆者は、下の写真の2人の言葉で復活を確信した。
ジム・ロジャース(左)、ウォーレン・パフェット(右)の2人である。
[第3回:日本の株価と国債(その2)]
国際投資家として名高い彼らが、「これから日本買いを行う」と言ったのである。
世界各国の株式市場に与える彼らの影響力は日本で考えられているよりはるかに大きい。
その結果、日本の株式市場は、一時的とは言え、1万円台を回復した。
ところで、この二人の日本買いの理由であるが、実に明快だった。
「日本人の勤勉さ、協調性が買いなんだよ」
ということは、日本人がこの2つの特質を失わないことが、日本復活の大きなカギと言うことになる。


◇そもそも今の株価は高いのか安いのか
日本の株価の指標には「日経平均」と「TOPIX」がある。
「日経平均」は、日経新聞が選んだ主要225銘柄の単純平均株価である。
もう一つ300銘柄に対する時価総額加重平均を表わす「日経300」と呼ばれる指標もある。
主要銘柄の中には輸出企業が多く含まれることから、結果として、日経平均は円相場の影響を受けやすいと言える。

一方、「TOPIX」は「聞いたことはあるが・・」という程度の知識の方が大半であろう。
株の売買をされている方には釈迦に説法だが、以下のごとく算出される指標である。
東証一部上場の全銘柄を対象に、企業毎の「株価×上場株式数」、つまり時価総額を算出し、その総和について、基準日(1968年1月4日)の総額を100とした場合の比率で表わす。
つまり、「TOPIX」は、「日経平均」ほど円相場の影響は受けないということになる。

2009年2月、日経平均株価はTOPIXの30倍に達した。
これは「危ない水準」と言われ、その後、株価は大きく下落した。
2012年6月21日終値で、TOPIX は753.96、日経平均は8,824.07。およそ11.70倍である。
これが何を意味するかのご判断は各自で・・。


◇デフレが続く原因
経済界はインフレを望むが、一般市民(消費者)はインフレを嫌う。
「インフレ=値上り」を連想するからである。
日本は、20年前バブルがはじけてデフレ経済に陥り、以降そこから抜け出すことができない。
世界でも例を見ない経済状態である。
政府の無策も大きいが、国民の意識がインフレを嫌っていることが最も大きな要因であろう。
20年続くデフレ経済下で物価は下落を続け、国民の多くはこの恩恵をたっぷりと受けている。
「デフレって良いじゃないか」なのである。どうしてそうなるのか。

単純な理屈である。物価は下がっても給料は下がらないからである。
正しく言うと、「サラリーマンの給料は下げられない」からである。
それゆえ、サラリーマンにとっては、物価が下がる恩恵だけを受けるので、潜在意識では「いいじゃないか!」なのである。
口では「給料が上がらない」と文句を言うが、物価下落で実質的には賃上げが続いているのである。
しかし、「物価が下がる」ことは、企業や商店の利益が減ることを意味する。
企業が、売価下落に連動させて給料を下げるか人員削減に踏み切れば利益を守れるのだが、日本の経営者はその手が使えない。
結果として企業業績は悪化の一途をたどる。
いよいよとなれば「止むえない」と人員削減等に踏み切るが、まだまだ少数派である。
国民は、雇用が維持されれば、「デフレは歓迎」なのである。


◇経済発展にはインフレが必要
デフレ経済とインフレ経済は、どこが一番違うのであろうか。
それは「カネの価値」である。

例えば
1,000円の服が、デフレが続いて500円で買えるようになると、1,000円では2枚買えることになる。
つまり、1,000円札の価値は2倍になる。
逆に、インフレで同じ服が2,000円になると、1枚の服を買うのに1,000円札が2枚必要になる。
つまり、1,000円札の価値は半分になる。

消費者心理としては、インフレでは「早くモノを買っておこう」となる(下図の左)。
反対にデフレでは「なるべく我慢して、モノは後で買おう」となる(下図の右)。
どちらが経済発展に寄与するか。
説明するまでもなかろう。大半の企業はインフレ経済でなければ、やがて死ぬ。

[第3回:日本の株価と国債(その2)]
◇デフレを望む日銀官僚
実は、日銀官僚も「デフレを好む」。というより「デフレを望む遺伝子」を受け継いでいる。
戦後一貫してインフレ経済が続き、そのあげくにバブルを引き起こした。
「日銀は何をしていた!」「無策の日銀」とののしられ、彼らの誇りはズタズタとなった。
インフレを忌み嫌う日銀の体質はこうして作られた。
日銀が、改正日銀法(1998年施行)により悲願の「政府からの独立」を果たして以来、2012年3月までの間、消費者物価が前年比でマイナスになった月数は73%にも及ぶ。

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[第3回:日本の株価と国債(その2)]
白川方明日銀総裁
Yahoo画像より転載
現在の白川総裁は生え抜きの「日銀マン」である。
この間の物価上昇率マイナスの政策にことごとく関与してきた。
その白川総裁は、米連邦準備制度理事会(FRB)が2%のインフレ目標を今年1月に決めると、あわてて「1%インフレの目安」を発表した。

「ついに日銀が政策転換した」と市場は驚き、相場は円安、株高に反転した。
それなのに、ここで白川総裁は「国債などの債券の金利が1%上がると、国内の銀行が所有する債券が6兆円超も値下がりし、損失を被るおそれがある」と言い出し、せっかくの好機に水を掛けた。
なぜか。

『物価が上がりそうだ』と市場が予想すると名目金利が上がる。
すると、預金の大半を国債で運用している国内銀行が困るという論法だ。
このくらい、日銀官僚はインフレを恐れているのである。
しかし、市場経済はダイナミックだ。
脱デフレで名目成長率と名目金利が上がれば、たしかに国債を大量保有している銀行の負担は増えるが、国内の余剰資金は、株式市場に回り、経済が活気づく。
金融機関、企業、年金、家計などの保有株式資産価値はグンと上がる。
もちろん、銀行の資産価値もである。
政府が、経済成長恐怖症の財務官僚・日銀官僚を突き放さない限り、日本再生は不可能なのだ。


◇政策ミスは明らかなのだが
今も世界一の債権国(つまり金持ち)の座を維持しながら景気が低迷している日本。
考えてみれば奇妙な国家である。
たしかに、山ほどの公的負債を抱え、国家財政は火の車である。
このままでは、日本は第3の「失われた10年」に突入してしまいそうである。
しかし、日本経済が弱いわけではない。
弱かったら、こんなに海外の債権を有しているわけはないのだから。
しからば何が悪いのか。
それは「政策」である。今の経済状態は、政策ミスがもたらした結果なのである。
要するに、これまでの日本の財政政策は何の効果も発揮していなかったということである。

バブルがはじけた後、バブル期に大規模な借り越しとなっていた(つまり、過剰借入の)不動産が値崩れを起こし、住宅ローンを抱えた国民はマイナスになった財産の借入返済を行わなくてはならなくなった。
分かりやすく言えば、2千万円で購入した家の価値が1千万円に大幅下落したのに、住宅ローンは2千万円残っているということだ。
このことが、金融システムに大量の不良資産を発生させる要因となり、この穴埋めで政府の債務が膨れ上がった。
まさしく、絵にかいたような負のスパイラルである。
一方で、人口増加が終焉(しゅうえん)し、高齢化が急ピッチで進むことで、社会保障の負担が現役世代に重くのしかかる。
このジレンマから抜け出すには、社会の構造を変え、経済モデル転換をダイナミックに行うことしかない。
だが、政府はこの実行に踏み切れず、無意味なスローガンを垂れ流すだけ。
このような政策ミスが日本の内需を伸び悩ませ、景気低迷が続く要因となっているである。


◇円高も悪くはない?
一方、過去3年で円の対ドル相場は30%上昇したが、円高は悪いことばかりではない。
多くの日本企業はこの円高に耐え、一段と強くなっている。
ソニーやパナソニック、シャープといった家電、エレクトロニクス分野の企業は、今期大幅な赤字計上となりそうである。
しかし、自動車会社の業績回復は鮮明になってきたし、ソニーなどの巻き返しも期待される。
日本のマスコミはほとんど報じないが、これらの企業も、海外ではその実力を発揮させていることに目を向けるべきである。
円高が進んでも、自動車や電子部品、高級機器などの競争優位産業の競争力は、景気低迷により低下するどころか、新製品を矢継ぎ早に出し、その質を大幅に高めている。
ドルの対円相場の上昇で、一部の低級品の輸出・製造企業は大きな打撃を受けているが、高級品製造企業の利益や海外投資からの利益は、円高により大幅な増加となっている。
このように、日本経済は数字だけ見ると末期的症状に見えるかもしれないが、経済を根底で支える基礎は想像するほどにはひどくなく、むしろ強固さを増していると言える。