第15回:質問特集 その1

2011.04.28



各種報道もワンパターンに陥り、量も減ってきたのう。
このコーナーも日が空いてきておるので、大きなことは言えんがな。
そこで、いろいろ来ておる質問に、まとめて答えようと思ったのじゃ。
これまでも答えてきたが、今回はまとめてお答えする。
数が多いので、2~3回に分けて特別講師にお願いした。
それでは、特別講師に解説をお願いする。
質問をいただいた順序とは無関係に、紹介させてもらいます。
また、日にちが経ってしまったご質問もあります。
言い訳ですが、多忙な身ゆえ、なかなか時間が取れません。
回答が遅れたことは陳謝いたしますが、事情を勘案してお許し願いたいと思います。



【質問1】
放射線にはたくさん種類があるようですが、原発から出ている放射線の種類は何でしょう?

【回答1】
かつて、以下の「主な放射線の種類と透過力」を掲載しました。
X線以外の放射線が、原発から出る電磁放射線の種類です。



このうち、中性子線は最も透過力が高い放射線ですが、臨界状態でないと放出されません。
臨界状態が発生しない限り、心配ないでしょう。
原発で生成される放射性物質と放射線の関係は以下のようになります。



主に問題となるのは、粒子であるβ線です。薄いアルミ板でも防げますので、こうした防護を怠らないようにすべきです。




 
【質問2】放射線は限りなくゼロでなければいけないという説と、微量の放射線は必要なんだという説があり、天動説と地動説ほど違います。むしろ塩のようなもので、少量なら必要なものではないかと思うのですが?塩も摂取が過ぎれば健康被害を引き起こします。



【回答2】
放射線は、低レベルであっても、細胞のDNAを傷付けます。
そして、その傷が、ある機構を経て、細胞の突然変異を引き起こします。
(この機構のことを話すと長くなるので、省略します)
「放射線害毒論」は、ここを問題にし、放射線は低レベルでも浴びるべきではないと主張しています。

昔は、細胞が放射線を受けると、その傷害の為に細胞の生存率が減ると考えられてきました。
しかし、損傷の受け方は一様ではなく、致命傷を受ける確率は非常に低いことも分かってきました。
その上、細胞には「自己修復能力」が備わっていて、たいがいの傷は直してしまいます。
私がかなりの放射線を浴びても大丈夫だったのは、この能力のせいだと思っています。

さらに興味深い事実があります。
細胞に予め、低レベルの放射線を照射します(これを「前照射」と言います)。
数時間後に、再度、同程度の照射をすると、前照射をしなかった時に比べて染色体異常の出来方が少ないことが分かりました。
つまり、細胞が放射線に対し強くなったのです。

ですが、この前照射の線量を一ケタ以上上げると、この効果は見られなくなります。
この反応は「適応応答」と言われ広く認められています。
これらのことが、「微量の放射線は必要説」の根拠ではないかと思います。

現在の放射線に対する規制値のガイドラインを作っているのは、ICRP(国際放射線防護委員会)です。
ICRPの1990年勧告が認めているのは、「しきい値なし直線(LNT)仮説」という理論です。
簡単に言うと、放射線を浴びる量に比例して細胞の損傷が直線的に高まっていくという、線形理論です。



(右図を参照)
この理論でいくと、細胞の損傷を抑えるには、人工の被曝量をゼロにしなければなりません。
一方の「適応応答」理論でいくと、低レベル放射線を浴びることで、むしろ細胞は強化されることになります。
(もっとも、浴びる線量には十分な監視とコントロールが必要でしょうが)

たしかに、ご質問者の言われるとおり、「塩」のようなものとも考えることも出来そうです。
ただし、上記の説明は外部被曝の場合を基準にしています。
α線のような粒子線は紙1枚で止まります。
打撃力は大きいのですが、距離減衰も大きく外部被曝の場合はほとんど問題はありません。

しかし、内部被曝をすると、ごく近距離でなんの防護もなく、臓器やリンパ球が24時間の照射を受け続けることになります。
ゆえに、その影響は甚大です。
ICRPの勧告は、内部被曝のことを考慮していないとして、非難する研究者もいます。
一方で、適応応答を考慮していないと、反対側の研究者からも非難されています。




【質問3】
ICRP(国際放射線防護委員会)って、国連の機関なんですか?

【回答3】
ICRPは正式な国際機関ではなく、NPO団体のような組織です。
ボランティアで多くの学者が協力している組織です。
だから、いろいろ非難するのは酷なような気がしますが、日本を始め世界各国が、ICRPが出す勧告を参考に規制値を決めています。

最新の勧告は2007年に出されていますが、未だに前回(1990年)勧告を基準にしている国が多いのも事実です。
これは、世界各国がサボっているというより、原子力利用に関する利害が各国内でも対立しているため、なかなか新基準を打ち出せないためといえます。

ちなみに、2007年勧告では、適応応答を取り入れ、しきい値として100ミリシーベルトを打ち出しています。
原子力利用に関する正式な国際機関としてIAEA(国際原子力機関)がありますが、これとは無関係です。




【質問4】
ところで、こちらでの解説員さまは、放射線環境で従事されていたということもあり、今現在程度の放射線では、健康面への影響は心配要らないということですが、それは大人の話であって、子供への影響は別問題だと思います。
大人が影響ない環境でも、子供にはおおありです。

(大人は思春期の成長はもうないし、10年後20年後にがんになる確率が少し増えても、もともと確率がある程度あり、成人病やたばこなど、いろんな原因がすでにあります。)

子供は、もともとがんになる確率は少ないです。
しかし、成長期で放射線の影響が大きく、子供が10年後20年後にがんになるリスクは、大人のものと比べてはおかしいです。
10代20代でがんが増えては、いまの子供が悲惨です。
子供についてのリスクは別だということを、言及していただかないと、誤解する大人が増え、子供への危険性が軽視されたら大変です。
どうか、子供の安全について、原発の状態よりも、重要視していただけるようお願いいたします。
中部大学の武田教授はこのことについて、何度も警告されています。
http://takedanet.com/
どうか、ご一読いただき、よろしくお願いいたします。
日本の本当に考えなければならない問題は、いまの原発よりも未来の大人、いまの子供です。

【回答4】
このシリーズの前半で、子供と女性は放射線に弱いので特に注意が必要と述べています。
武田教授の論文は読んでおります。言われていることも正しいと思っています。
チェルノブイリでも奇形の発症は、全て子供です。
成長期にある子供の甲状腺は特にヨウ素を取り込みやすいため、ヨウ素131が体内に入り込んだときの危険度は、子供の方が大きいのです。
私は感情的な反応を排除することにしています。正しい理解を妨げるからです。
私の言い方が物足らないと取られる方は、そのことが原因と思われます。
どうぞ、ご理解をと、お願いするのみです。




【質問5】
4月21日に「福島第1原発作業員の被ばく線量管理手帳に記載せず」との記事がありました。
本当なんでしょうか。こんなことがあって良いのでしょうか?



【回答5】多分、以下のような記事を読まれたのだと思います。
『東京電力福島第1原発の復旧を巡り、作業員の被ばく線量の上限を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げた特例措置が現場であいまいに運用され、作業員の放射線管理手帳に線量が記載されていないケースがあることが分かった。

関係法を所管する厚生労働省は通常規則に基づき「100ミリシーベルトを超えると5年間は放射線業務に就けない」とする一方、作業員の被ばく線量を一括管理する文部科学省所管の財団法人は「通常規則とは全く別扱いとする」と違う見解を示し、手帳への記載法も決まっていないためだ。』

結論から言うと、「30年前と変わらないんだな!」です。
私が、自分が浴びた量を推定値で話すのも、正確な線量が分からないからです。
当時、特殊な作業に従事していた我々には、交代要員がいませんでした。
途中でリーダー格の2人が離脱しましたが、その補充すらなされませんでした。

しかし、仕事量は山のようにありましたし、予想外の事態が頻発し、原発に入る時間はどんどん増えていきます。
残された要員の作業時間は必然的に増え、被曝線量は上がり続けます。
1日単位でも、多量の仕事をこなすには、許容被曝線量が少なすぎました。
「どうするか」と悩みました。
仕事を止めるか、許容量を超えて続行するか。


仕事を止めた場合、数千人に及ぶ作業員の健康を守るためのデータが取れなくなります。
それを考えたら、答えは一つしかありません。
ただし、我々が浴びた被曝線量の記録を公式に残すことは出来ません。
その影響の大きさを考えた末、放射線線量計を外して中に入ることを決断しました。
今でも同様なことが行われていることに、進歩の無さを感じます。
こんな記事も見つけました。

『作業員の被ばく線量を一括管理する財団法人・放射線影響協会の放射線従事者中央登録センターは「250ミリシーベルト浴びた労働者に通常規則を当てはめてしまうと、相当年数、就業の機会を奪うことになる。全く別扱いで管理する」と説明。

さらに「労災申請時などに困らないよう、手帳に記載する方法を検討している」とし、放射線管理手帳への記載方法が決まっていないことを明らかにした。』

これも当時から言われていたことです。
被曝線量が多過ぎて原発に入れなくなったら、その作業員の「生活ができなくなる」ということです。
これは、別の意味で切実な問題です。



原発内作業は、被曝という危険を伴う仕事ですが、その分、賃金の割増があります。
この金銭的恩恵を受け続けた作業員の中には、それがないと生活が成り立たなくなる者が出てきます。
「原発での作業は人の心も蝕む」と言った人がいますが、こんなことを指しているのです。

私には、なんとも言いようがありません。
ちなみに、当時の私の被曝手当(給料明細は違う名前だったような記憶があります)は、1日250円でした。
時代が違いますし、置かれた状況も違います。
また、自分の関心も薄かったと思いますが、この金額だけは鮮明に覚えています。
下請会社にしても、作業員が原発内に入れなくなると売上が上がらなくなります。
以下のような証言もあります。

『復旧作業にあたる2次下請け会社の男性作業員(30)は3月下旬、現場で元請け会社の社員から「今回浴びた線量は手帳に載らない」と説明された。

「250ミリシーベルト浴びて、新潟県の東電柏崎刈羽原発で働くことになっても250ミリシーベルトは免除される」と言われたという。』

「なんと理不尽な」と下請会社を責めるのは簡単ですが、表面の事象だけでは何も判断できません。
ただ、このようなことが30年間、改善されずに続いてきたんだなと思うのみです。





【質問6】
先ごろ、福島第一原発の周辺地区の累積線量が発表されました。
なんだか気の遠くなるような数値で、もう人が住めなくなるのではないかと心配です。
親戚が浪江町に住んでいて、避難しています。
どうなるのでしょうか。

【回答6】
ご質問された方は、文部科学省が26日に発表した内容を見られて心配になったと思われます。
まず、この発表内容を以下に掲載します。
『現在の水準で放出が続いた場合、来年3月11日までの1年間の予想累積線量は、福島県浪江町赤宇木椚平(原発の北西24キロ、計画的避難区域)で235.4ミリシーベルトに上った。
福島市や福島県南相馬市でも、一般人の人工被ばくの年間限度量(1ミリシーベルト)の10倍に当たる10ミリシーベルトを超えると推定している。
作成には、文科省が日常的なモニタリングを実施している測定地点(2138カ所)のデータを使った。
地震翌日の3月12日から4月21日までの実測値を足し合わせた累積線量に加え、4月22日の線量がこれからも続くと仮定して来年3月11日までの累積線量を算出。
各地点では、1日のうち8時間を屋外、16時間は木造家屋の中で過ごすとした。
木造家屋は屋外に比べて被ばく量が4割低いという前提だ。』

浪江町は細長い町なので、計測点によって、235.4~24.2ミリシーベルトもの差があります。
政府は、「年間20ミリシーベルト」を超えると予想される地域を「計画的避難区域」に指定しましたが、これまでの基準10ミリシーベルトを単純に2倍にしただけで、学術的根拠はありません。
放射線医学の見地からは、「100ミリシーベルト以下での障害の例はない」とされています。
それなら、ほんの一部は除いて、帰れることになります。

一方、かつて裁判所は、元原発作業員が東電に損害賠償を求めた訴訟で、4年3カ月の累積70ミリシーベルトで多発性骨髄腫を発症したとして労災適用を認めました。

このように、国の基準や判断がバラつくこともまた、不安を掻き立てる要因になります。
先の文部科学省の発表は、4月22日の線量が今後も続くと推定しての値です。
おそらく、新たな事態が生じない限り、放射能の減衰は予想より早いと思います。

私は子供と妊娠可能な女性を除いて、場所によっては、早期に戻れると思っています。
しかし、政府がそうしないのは、万が一の事態が発生した場合、住民を安全に避難させる方策が作れていないからだと思います。
そこで非難を浴びるより、長く避難させ過ぎたことで非難されるほうが楽との判断の結果と推測しています。





かなりの分量の回答になってしまったようで、特別講師にはご苦労様と言いたいのう。

次回も質問の続きの解説をお願いした。

期待しておいて欲しい。