第3回:パン屋の話

2008.03.01

 
 
 
今回は、実際にあった話を題材にしよう。

とある地方都市に小さなパン屋があった。
夫婦二人で焼く自家製のパンの評判は良く、なんとか生計も成り立っていた。
そんな街に、ある日、黒舟がやってきた。
大手のチェーン店が進出してきたのである。
真新しい大きな建物の一角に、こぎれいなパン屋も出来た。
若いきれいな店員が愛想よく応対する雰囲気に人々は引き付けられた。
大都市で人気のパンを中心に売れ行きも上々だった。
当然、夫婦のパン屋は客足も遠のき、売上はジリ貧になっていった。
二人でつくため息の数だけが増えていった。
ここまでは、よくある話である。

日本中の街で起きている日常風景ともいえる。
パン屋の主人は廃業を考えるようになっていたが、
ふと一人の友人のことを思い出した。
その男は、自身でも会社を経営していたが、幾つもの会社の危機を救っていた。
主人は、話だけでもと思い、連絡を取った。
「懐かしいね。元気?」
電話の向こうから、昔と変わらぬ明るい声が響いてきた。
主人の窮状を聞いた彼は、「とにかく、そちらへ遊びに行くよ」と言った。
しばらくして、彼はパン屋の街を、朝早くに訪れた。
新しいチェーン店に行き、街のあちこちを歩いた後、友人のパン屋を訪問した。

彼とパン屋の主人との会話である。
彼 :君は、何時にパンを作り、何時に店を開けるのか?
主人:7時ごろからパンを作って、店は10時ごろ開けるよ。
彼 :あの新しい店は8時に開けていたよ。
主人:チェーン本部から朝早くパンが届くからね。
彼 :そこだよ。こっちは7時に開けようよ。
主人:だったら、前の日にパンを作ることになっちゃうよ。
彼 :なんで?
主人:だって、そうだろ。7時に間に合わせようとしたら、4時からパン作りだよ。
起きるのは3時になっちゃうよ。
彼 :それをやれば!
主人:人ごとだと思って、頭にくるな!
彼 :あのチェーン店は、朝は前の日に作ったパンを売っているわけだよ。
本部からパンが来る以上、それは止むを得ない。
こっちは、朝作ったパンを朝7時に売るんだよ。
向こうは真似できないよ。
主人:しかし、毎日3時に起きられないよ。
彼 :昔から豆腐屋は2時に起きているよ。新聞配達店も3時には起きているよ。

すると、それまで黙って二人の会話を聞いていたパン屋の奥さんが、こう言った。
「あなた、やりましょう。3時に起きて、7時にパンを売りましょう。私もやります」

その後のことは、もうお分りであろう。
ほかほかの出来立てのパンを朝7時に売るパン屋の評判は人づてに広がり、
お店の来客は増えた。
さらに、夫婦は『朝の出前』をやり出した。
病院や老人ホームなどから引き合いがあり、商売は繁盛していった。

この話の主旨は単純なようであるが、ここは脳内道場である。
そう簡単に稽古を終るわけにはいかない。

実は、この話は、早起きの奨めでもなければ、頑張ることの奨めでもない。
「限界なき思考法」を身に付けることを言いたいのである。
このパン屋は、友人の助言と奥さんの決意によって、自分の限界を作っていた呪縛を破った。

このように、人は、自分の廻りに、自分で作った限界線を張り巡らす。
この限界線の結界が自分を小さくし、可能性を蝕んでいることに気が付かない。
しかし、この眼に見えない限界線を破るのは簡単ではない。
いや、この限界線の自覚すら無い人のほうが多いくらいだ。
症状を自覚するのは簡単だ。
自分の言動を少し注意深くチェックしてみるとよい。
出来れば、チェック結果を紙に書いていくとよい。
「出来ない」、「後で」、「無理」、「時間がない」・・・
このような言葉を発したり、口に出さなくても思考がよぎったりしたことを
チェックするのだ。
一つでもあれば、限界線が存在していることになる。

では、どうすれば、この限界線の呪縛から逃れることが出来るのか。
次の訓練を続けたまえ。
どんな問題に対してでも良い。
自分の限界線を消し、『なんでもあり、なんでもする』と思考を飛ばしてみるとよい。
どんな荒唐無稽な発想も、違法行為だって、考えるだけならかまわない。
そうすると、どんな難解の問題にも解決策があることに気付く。
これが問題解決の第一歩となるのだ。

次は?
本脳内道場に通い続けることだ。
確実に思考能力はアップしますよ。